ボクとキミのものがたり
ちょうど月も変わる頃だったかな。ボクの郵便受けに封筒。星のイラストが角に入っているボク宛には珍しい可愛らしいものだった。たいがいボクへの手紙は、企業名入りの茶封筒か公共料金の請求金額を記したものばかり。
見覚えのある宛名書きを見て、裏側の差出人を確かめる。
『にゃん』と猫脚マーク。
おいおい、これは公認なのか? 住所はともかく名前はどうした?
それでも嬉しくてほくそ笑んでいるボクは……。 ま、いっか。
部屋で開封する。封筒の中に何かを残し、ボクはその便箋を引き出し開いた。
『暑中お見舞い申し上げます』
綺麗なキミの文字が涼やかな風のように癒してくれた。
いや待て。暑中見舞いといえば、年賀状に同じく葉書きが通常ではないだろうか。
ボクは封筒を逆さにし、封筒の中に残っていた何かを卓袱台テーブルの上に滑り落とした。
微かにコツッと小袋に入ったものが音を立てた。
「なに? コンペイトウ?」
あまりの不思議にボクは声を出してひとり呟いた。
微妙な色合いだけど、七粒のコンペイトウとやや大き目のコンペイトウがはいっていた。
ボクは、便箋に書かれた文字の続きを読む。
読む、読む? ……?
『いっしょに にゃんしよ~』
さて、今回の暗号は難しいぞ。
誘われていることはまずクリア。とはいえ『にゃん』は下世話なことではないはず。
コンペイトウが七粒と一個。もしや 北斗七星と北極星かな。
それだけでは、謎解きはまだ始まらない。ボクは小袋からコンペイトウを出し、卓袱台の天板に並べる。柄杓型。
待てよ。ボクは、ネットで夏の星座を検索する。夏の北斗七星と北極星はと……。
北極星を見て 北西に柄杓の形。杓を下に柄を上に位置する。そのようにコンペイトウを並べる。(近づいたかなぁ)ほかには何かないだろうか、とネットをあちらこちらクリック。
「これかぁ」
ボクは、携帯電話でメールを送る。
『楽しみだね』
返ってきたメールはもちろんこれだ。
『にゃん』と星マーク付。
もしかして 知りたい?
たぶん どうしてそれがそうなんだよ!となるかもしれない。
でもボクは間違っていてもなんらかの答えを見つけてキミに返してあげる。
そうしてずっと過ごしてきたんだ。
柄杓があれほど傾いたら、きっと水は零れてしまう。星空に流れ落ちていく星屑。
これが 今回の謎解きの答え。
ボクは、いつから探偵になったのだろうな。
本当はこの情報を見つけなかったら、こっそり教えてメールを送るつもりだった。
作品名:ボクとキミのものがたり 作家名:甜茶