ボクとキミのものがたり
あの日。もうすぐ春が来るんじゃないかという頃の寒波。忘れていた分を急いでぶちまけたような雪が降った。
バイトから戻ったボクは、郵便受けに薄い封筒を見つけた。内定先のロゴと社名の入った封筒に気持ちが上がる。
(もうすぐ社会人か)
だが、部屋に入ってかじかむ手で開封した文書に心が凍えた。
「内定取り消し!?」思わず大きな声を出してしまった。
(あ、呟き以上のおしゃべりになってしまっているな……ま、いいか)
よくよく読めば、企業の破綻によるもの。じたばたしたところで詰め寄る先がなくなったのだ。ふっと諦めの息が漏れた。
諦めは、腹を空かせた。
近くのコンビニ店まで出かけ戻ると、マンションの入り口辺りに丸まった背中。
こんな日なのにコートらしきものは着ていないし、足元近くまで雪がある場所に座り込んでいる。膝を抱え、顔を埋めているものの、女子だとはわかる。
声をかけていいのか?ボクも心が冷えている。人助けでもすれば温かくなるだろうか?
「大丈夫?」
ボクの声に首を横に振る。予想とは違う。そうなると、焦ってくる。次の言葉を探す。
「ど、どうしたの?誰か待ってるの?」
(そうだ、きっと此処の誰かん家に来たけど入れないんだ)
その時顔を上げたキミは、ひと昔前に映画で観たキョンシーのような目元。雪に髪も濡れていた。
「寒いでしょ。温かいものくらい飲ませてやれるよ」
どうして、あんな台詞が出てきたのだろう。今でも不思議だ。それにまさかついて来るとも思わなかった。
キミを通り過ぎて部屋のドアを開けると後ろにキミは立っていた。(正直、怖かったよ)
「どうぞ」
できるだけ、意識をしないように声をかけ、部屋に上がった。
キミは、玄関に気配を止めたままだ。(当たり前か。男の部屋だもんな)
ボクは、コンビニ店の袋から取り出し、玄関へと行った。
「ピザまんとカレーまん、どっちが好き?」
「肉まん」
「は?」
キミは、微笑んで「にゃお」とピザまんを指差した。
「あ、そう。じゃあ上がって」とボクは、踵を返しリビングへと行った。
「冷めるから、飲み物はあとね」
ボクとキミは、冷たい床に座り込んで、まだ温かい中華まんを手にした。
キミは、ピザまんを半分に千切ると、半分をボクに差し出した。
「分けるの?」
「ううん。食べたくて買ったんでしょ。はい」と紙に包んだ方をボクの膝に置いた。
ボクも半分に千切ったつもりが、ずいぶん差のある大小になった。
「いいの?」とキミは、小さい方を受け取った。
カレーまんは温かかった。独りじゃなかったから温かく感じたのだろうか。
落ち込みそうな気持ちのボクは、初めて会った女子なのに、キミの笑みに救われていた。
その夜、ボクのダウンジャケットを被り、部屋の隅っこで眠ったはずのキミは、翌朝目覚めたボクの前には居なかった。
作品名:ボクとキミのものがたり 作家名:甜茶