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ボクとキミのものがたり

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「こちらです。贈り物ですか?」
「ええ、まあ。あのどんなのがいいんでしょうね」
きっとこの人ならキミに似合うものを選んでくれるのではないだろうか。
それに ボクが少し嬉しかったのは、この女性が「プレゼント」と言わず「贈り物」と言ってくれたことだ。同じじゃない。と思うけど誕生日でもクリスマスでもないときに渡すものだから プレゼントというほど大袈裟に思われたくなかった…… ボクの可笑しな拘りなんだけれど そう思った。

「どういった感じがお好きですか? 髪は長い方?」
アクセサリなど装身具、可愛らしい装飾品が並ぶ棚のところで女性にキミのことを話す。
どんなふうにキミのことを伝えようか。ボクは、キミのことを きちんとわかっているのかを確かめられているような気がした。
「こういった感じのを選ばれる方が多いですけれど、せっかくの贈り物ですから 貴方の好みで選ばれては如何ですか?」
(わぁ、どうしてハードルを上げるの……)
ボクは 一気に赤面してしまいそうだ。
ふと入口の方を振り返ったその女性の髪留めが見えた。調金細工にペイントされた石のようなものがはめ込まれているデザインだ。とても素敵だけれど キミには少し大人っぽい気がする。それに目の前の棚には、なさそうだ。
パールやストーンやリボンを使ったデザインのものが多かった。ボクなりに選ぶしかないかなぁと棚に目を移すと、(見つけた)そんな台詞が浮かんだ。
アイボリーとオフホワイトのリボンの真ん中に 蝶のモチーフが付けてあるデザインものだ。ボクは、迷わず手を伸ばした。
「そちら いいでしょ。優しい色のリボンとプラスチック素材の蝶ちょのバレッタです」
「いいですね。これ ください」
「ありがとうございます。贈り物用にお包みしますね」

数分後、ラッピングされた包みを受け取り、ボクは店を出た。
何度も、手の中に納まるほどの包みを眺めた。足だけが帰り道を覚えているように歩いていた。この角を曲がれば、もうマンションまでは僅かな距離だ。
このまま キミにこれを届けに行こうかなとも思ったが、寄り道している間に仕事の連絡があったのではないかと気になった。郵便物を投函に行くだけのつもりで出かけたので
連絡のとれる携帯電話機は家に置いたままだったのだ。仕方なく部屋に帰えることにした。

部屋に戻り 独書室の机の上の携帯電話機のランプが点滅していた。
数件の仕事先からのメールの中に キミからのメッセージがあるのを見つけた。
カーソルを合わせなくても ボクにはわかる内容。声に出しながらその書いてある文字の答え合わせだ。
「せぇのぉ『にゃん』 はい、当たり」
キミが来るのが待ち遠しい。
 
作品名:ボクとキミのものがたり 作家名:甜茶