ボクとキミのものがたり
手袋を握り、外に出たものの……はて?どうしよう?どっちだ?
キミの行く先が分からない。
一笑されて『何冗談言ってるの?』と突っ込まれてもボクは知らなかった。
引っ越したといった新しい住まいも、壊れて買い換えたらしい携帯電話の新しい番号も。
携帯電話の番号はそのままだろうと、用事があって掛けたことがあったが変更されていた。
(どうしようかな?)と考えている間にキミが来たので用事も済んでしまった。
「変えたの?」
「にゃおー!」
そんな問答で終わったことを 今、後悔している。
いつもキミが居るのが当たり前だった。知らないことの不便さなんて感じたことがない。今までボクにそんなことを一糸も思わせたことなどないキミが、今凄く遠い。愛しい。逢いたい。
久し振りに見る真っ赤な夕焼けは、いつになく感情的なボクの表情に仮面をつけてくれるだろうか。
羽織るものもなく飛び出してきてしまったボクの身体を、冷え込んだ空気が掠めていく。
いくらキミの手袋を握りしめても、温かさは感じない。(こんな当たり前ですら淋しい…)
さっきまで、平気だったはずなのに、どうしたことか不安な気持ちだ。
持ち場を離れてしまったからか…アンテナが圏外に変わって充電が減っていくような。
(きっと、明日には、ちょこんと部屋に居るさ)
そんなボクを横目で見ながら通り過ぎる小母さん。
ボクは、部屋に戻ると、隣の部屋にあるキミのものを探す。
(あれ?)キミの部屋の大移動に使っているキャリー付きのバッグがない。
要らぬことを考えているような、考えることが停止したようなボクは、気付けば、机の前に座っていた。
ボクは、机の上に柔らかな毛糸の手袋を置き、その様子を眺めていた。
・・・・・・・・・・・・・・・。
動くはずなどない。
机の上の小さなモップの柄に手袋を被せた。
手袋の下から覗くモップの房が何となく可愛い。
(早く、戻っておいで)
柄が入っている手袋の中指をツンとペンで押すと、ユラユラっと揺れた。
キミの笑顔の代わりにはならないけれど、今一番傍にあって欲しいものかもしれない。
キミの わざと? 置き忘れの片っぽの手袋。
ただそれだけなのに……。
――きっと、引き合っているさ。
――ずっと 対でいたんだもんね。
――そして、ボクとキミも きっと 惹き合ってるよね。
といって……三日過ぎてしまった……
― 了 ―
作品名:ボクとキミのものがたり 作家名:甜茶