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ボクとキミのものがたり

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新しいキミの言葉は、何となく背中にぞぞっと刺さった。もしかしてこれって……。
キミのやきもち?
何だか嬉しいなぁと これはまずかったかなと 背中に嫌な汗が滲んできそうだ。

コンロをつける音。ボクは、キミが置いたほおずきを手にして軽く言葉を交わす。
「ねえ 妬いてるの?」
「焼いてるにゃん」
「脹れてるの?」
「少し 膨れてきた」
「おかみさんと友人の甘い話だよ」
「ちょっと 辛い」
「ほんの のりで言っただけさ」
「のり?巻くのがいいにゃん」
「ところでさぁ、何だかいい匂いだね」
キッチンの柱の所からにこっと微笑むキミの顔が覗いた。
「でぇきたにゃん」
キミが皿に乗せて卓袱台に運んできたのは、甘辛醤油の滲みた海苔巻きされた焼き餅。
「お餅? どうしたの?」
「どうぞって貰ったの。綺麗だったよ、花嫁さん」

聞いたことがある。何処かの地域では、花嫁さんが菓子や餅を配る風習があると。
ちょうど遭遇したらしく貰ったのだそうだ。

「あーん。まだ熱いかにゃん」
「じゃあ あーん」
ボクは、して返す。
「恥ずかしいにゃ……」
「はい、あーん。よくやるでしょ。結婚式で あーんってさ」
ボクは、キミの口に焼き餅を向けたが、やっぱり自分の口に入れた。
これは、そのときまでとっておこうかな。
「うん、旨いな。温かいうちに食べるといいよ。凄く伸びる。ふう あちぃ」
ボクは、少し照れくさくなった。
キミが食べさせてくることを受けていたボクだけど、キミに人前で食べさせるなんて緊張するな。
キミに食べさせるのは メザシかな。いや大切な日にそれはないだろうな。
頭の中で浮かぶことと 目のまえのキミを見つめながら頬が緩んでしまうボクだった。

もうアルコールは抜けたけれど、まだ酔っているのかな。ぼんやりと思考が揺らぐ。
友人とおかみさんの結ばれないだろう関係。道行く人にまで 幸せのお裾分けをする花嫁さん。こんなに近くに居るのに 時々どうしていいか戸惑うキミの事。

膨れっ面も お餅でふくらんだ頬も 可愛いけれど、やきもちを妬くキミも ちょっと嬉しく可愛かった。
勘違い? いやたぶん勘違いじゃないよね。時々ならいいかなぁ。
偽りのないキミへの想いをどうやって伝えたらいいかなとボクは思った。

食べている時の幸せそうなキミの顔が、お餅のように見えてきたよ。
きっとこの餅を配っていた花嫁さんよりも キミは幸せそうだね。
予想もしなかった焼き餅。
ただそれだけなのに……。


     ― Ω ―


作品名:ボクとキミのものがたり 作家名:甜茶