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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
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アホとピストル(続・おしゃべりさんのひとり言166)

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アホとピストル



銃口を向けられたってことある?
僕あるよ。

20代の頃、暫く営業研修でお世話になってた建築関係の会社で社員旅行があって、専務さんのご厚意で正社員ではない僕も、グァム島に3泊で連れて行ってもらえたんです。
家族も参加OKで、結婚したばかりの妻も同行できたんだ。
グァムでは、ほとんど自由行動だったけど、専務さんのご家族と一緒に行動することが多かったです。
専務さんはレンタカーを借りて、島中を移動する計画だったんだけど、乗車人数の関係でもう1台レンタルする必要がありました。
だから僕が借りて来ようと思っていたら、その日の朝、社員の山本君(20代前半)が4WD車に乗って、ホテル前にいるのを見付けました。
声をかけると、「ドライブ行きましょう」と誘ってくれたんで、「専務と一緒に行動しよう」って提案すると彼もOKでした。
山本君は外国で車を運転するのが夢だったそうで、早速一人でレンタカーを借りに行って、誰かをドライブに誘うつもりだったようです。
そこへたまたま僕が来て声をかけたので、僕は車を借りに行く必要がなくなってラッキーだったんだ。
でもね、この山本君、仕事で営業車を運転させると、かなり危ない運転をする人なんですよ。
スピード狂とか、交通ルール無視とか、そんなんじゃなくって。
注意力散漫の所謂『自己中運転』する人なんです。周囲の安全確認がほぼできない。
左折車線のまま直進してしまったり、左右確認せずに突然右折したり。車を降りる時も後続車を確認せずに、いきなりドアを全開にするし、だから営業活動中には、「彼に運転させるな」と皆言っていました。
とは言っても、普段自分の車で出勤して来ますし、事故を起こしたって話も聞いたことなかったので。

僕と妻はその4WDに乗せてもらって、ドライブに行くことにしました。グァム島到着後1か月以内なら、日本の運転免許証を携帯していれば運転は可能です。
僕も持っていますから、運転は交代できます。でも彼の夢を壊すことないですよね。
そのレンタカーは左ハンドルですし、グァム島内は当然右側通行です。
まずは山本君の練習のため、軽く走りに行くことにしました。
僕は日本でも左ハンドルに乗っていましたから、違和感ないですけど、山本君にしてみれば、初めての経験。動きがすごく遅い遅い。道路のラインに関係なく中央を走ったりしてしまいます。
左折時は、日本とは違い、道路の向こう側の車線に入らないといけないのに、手前の反対車線に入ってしまって僕が、
「違う違う逆行してる!」って言っても、状況がすぐに理解できないようです。
すぐ反対車線に移動してほしいのに、その間違ってる車線の路肩に停めちゃうんですよ。それじゃ正面から車が向かって来るから大騒ぎです。
そうこうしてうるうちに、専務との約束の時間になって、ホテルに集合。恋人岬まで行こうってことになったんだけど、まず僕らの車、何の打合せもなく山本君が運転して勝手に走り出しちゃいました。
「おいおい、先に行っていいのかよ」
「道分かりますか?」と山本君。
「・・・お前こそ、道知ってるの?」
「知りません」
こんな感じの男です。

だから彼は早速やらかしました。
表通りに出てすぐに、僕がアシストして「右だ左だ」と指示を出しました。その時僕は周囲の安全確認をしながら、いいタイミングで指示を出しているのに、彼は突然何の前ぶれもなく、勝手に車線変更をしたんです。その瞬間、
プーーーーーーーーーーーーーーーーーーー! とクラクションの長い音。
それもそのはず、僕らの車のすぐ脇に他の車がいたのに、全く見ずに進路変更したもんだから、その車が怒ってるんです。
その車の運転手は、僕らを追い抜き、前方でノロノロ運転を始めました。今で言う『煽り運転』の進路妨害みたいな感じですね。
しかし、悪いのは明らかにこちら。
「おとなしくして、許してくれるのを待とう・・・」と言うかどうかくらいで、山本君がその車に向かってヘッドライトをパッシングしてるじゃないか。
「アホ、こっちが悪いんやぞ」
「え? 何でですか?」
この男、全く気付いてない。とりあえず、それ以上何もしないように彼を制止して、ことをやり過ごすしかありません。でも相手のゆっくり運転が続きます。
僕らはセンターライン寄りの車線を走行していて、専務の車も僕らのすぐ後ろを走っていますが、後続車は遅い僕らを路肩側の車線から追い抜いていきました。
それを見てか、専務も僕らを追い抜きました。山本君もそれに続いて前の妨害運転の車を追い抜こうとすると、案の定、僕らの前に移動して進路を塞がれてしまいます。
プップーーー! 今度は山本君がクラクションを鳴らしてしまいました。
「アホ! やめろ!」僕と妻は焦りました。すると、その車は僕らの右側、つまり僕がいる助手席側にピタリと付けて、窓を開けました。
「え!?」
僕は咄嗟に身をかがめ、後部座席の妻もその理由が分かったみたいで、
「逃げて!」と叫びました。
「どうしたんすか?」と山本君。
彼には隣の車の運転席が見えていないようです。その運転手がピストルを持って、その銃口をこっちに向けていることが。
「撃たれる! ピストル出しとるんや!」
「え? ホンマですか?」と、彼はそのピストルが見たいのか、首を伸ばして助手席の窓をのぞき込みました。←アホです。
「逃げろって!」
とりあえずスピードを上げさせましたが、相手は銃を持った手を窓から出したままで威嚇して付いて来ます。
その緊迫感と言ったらかなりのもんでしょ。でも山本君はその時もニヤケ顔で、
「あれ、ホンモンですかねぇ?」←本物のアホです。
僕は窓の外に顔を出すような余裕はなかったので、その後相手がどういった行動を取っていたのか分かりませんが、いつの間にか付いて来なくなったようです。

その晩、社員全員でのディナーの場でこの出来事を話すと、逆に皆は「ピストルを撃ちに行こう」って話で盛り上がってたけど、正直僕はそんな気分になんかなれなかったですよ(泣)。


     つづく