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せき あゆみ
せき あゆみ
novelistID. 105
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テンマさんのたからもの

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「ちっきしょう。やられた」
 図書館の駐輪場で、一樹がさけびました。
「カギ、かけなかったのか?」
 友だちの隼人がきくと、一樹は、
「うん。ちょっとだと思って、つい」
と、くやしそうにサドルをたたきました。
 五年生の二人は、夏休みの自由研究につかう本を借りに来たのです。ところが、出てくるまでのわずか二十分の間に、つけたままだった一樹の自転車のカギは盗まれてしまったのです。
「犯人はテンマさんだ」
 一樹は吐き捨てるように言うと、唇をかみました。
「ゆだんしちゃだめだよ。三度目だろ」
 隼人は、自分の自転車にカギを差し込みながら言いました。

 テンマさんというのは、町ではちょっと有名な男の人です。
 ひょろりと背が高くて、ごま塩の坊主頭に、夏でも冬でも紺のスポーツウェアを着ています。そしていつもにこにこして、晴れた日でも、ピンクと水色のツートンカラーのこうもり傘をさしているのです。
 ちょっと膝が曲がっているので、体をゆらしながら歩いていますが、散歩がとても好きで、毎日きまって午後になると、町のどこかでその姿を見かけました。
 そして、誰かが声をかけると、にっこり笑ってぺこりと会釈します。もう、ずいぶんな年らしいのですが、四十才くらいにしか見えません。
 そんなテンマさんには、たった一つ、困った癖がありました。
 自転車やオートバイのカギが大好きで、だれかがうっかりカギをつけたままその場を離れると、たちまち取っていってしまうのです。
 ほかに悪いことをするわけではないので、みんな苦笑いで許していますが、ただ、そのカギがどうなってしまうのか、だれも知りません。
 文句を言いに、家まで行った人も、年をとったお母さんが、ぺこぺこあやまるばかりで、カギはどこにもなかったといいます。
「今日こそ、取り返してやる!」
 一樹は自転車をそのままにして、テンマさんをさがすことにしました。
「むだだって。すてちゃったよ。きっと」
 隼人は、やれやれといった顔つきで、自転車をひきながら、あとをついていきます。

 しばらくして、港にテンマさんの姿が見えました。少し曲がった足で、バネがはずむように、体をゆらしながら歩いています。
 ふたりはさりげなく近づくと、あとからついていきました。