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新しい性別の誕生

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陸軍参謀本部のドアを開けて中に入り、ダ―ン! と大きな音を立てて両足をそろえて敬礼した。ドイツ軍柏葉付騎士鉄十字勲章を佩用した将軍と二人の下士官が窓を背にして立っていた。その時、奥の扉が突然開いて全裸の男が飛び出してきて抱き付いてきてキスをした。
 な、何をする!
 裸の男は元来たドアから走り去った。将軍は冷たい目で拳銃を構えた。
見たぞ、お前はホモだ!
 シュバルツマン軍曹、男色を確認しました!
 ガンツ少尉、男色を確認しました!
「複数の人間が確認したので確定だな! 今から軍法会議を行う。死刑だ」
「わ、わ、私はそのような性的嗜好の人間ではありません! 勝手にあの男がキスしてきたのです!」
「うーむ、君の今までの功績に免じて軍法会議は延期とする。その代わり私のために命を懸けて働くのだ。わかったな!」
 ナチスドイツでは忠誠心を高めるためにこんな茶番劇が頻繁に繰り返されていた。男色には厳罰が下される。
ところがヒットラー総統は男色を突然解禁し、奨励を始めた。
人工子宮が発明されたのである。
 兵士、そして肉体労働力としては男の方が優れているため人工子宮から生まれてくるのは産み分け技術により男性とされた。こうして女性は生産性の低い劣等人種として収容所送りとなった。卵子生産のために才色兼備の少数の女性だけが生存を許された。そして性欲処理が社会的問題になるため、当然のことながら男色が奨励された。
「兵士が増加すれば必ず戦争に勝ちます。人工子宮、男子増殖、女子撲滅、そして男色推進は歴史の必然性です。この事実を直視しなかった国は滅び、あるいは奴隷国家に堕ちることは間違いありません」
 宣伝相ゲッペルス及び外相リッペントロップの巧みな工作によって、同盟国の日本とイタリアもまた男色の普及に努めることになった。
 日本が世界に誇る歴史修正主義者たちが大活躍し、紫式部も清少納言も実は男性だったということになった。従軍慰安少年隊が結成されて美少年が集められた。戦地の慰安所には看板が掲げられた。
 お国に捧げたこの美尻! 大和魂の大サービス!

 イギリスのチャーチル首相とアメリカのルーズベルト大統領は頭を抱えた。戦争が長引いたら、大量生産された兵士によって連合軍は必ず負ける。かといって民主主義をやめるわけにはいかない。いったいどうしたらいいんだ。
 原爆が発明された。戦争を早く終わらせるためには徹底的にこれを使うしかない! こうして原爆が枢軸国に雨あられと降り注いだ。連合国は大勝し、戦争が終わると枢軸国の人工子宮を徹底的に破壊した。
 第二次世界大戦が終わると今度はソビエト連邦が人工子宮を使用して男子大増産を始めた。共産主義国家としては悪の資本主義を打倒するために必要な手段を取るのみであった。唯物史観に基づく必然性だ!
 アメリカのトルーマン大統領は頭を抱えた。資本家を守るためには仕方がない。ソ連の核兵器が少ないうちにやってしまえ。アメリカとNATO諸国連合はソビエト連邦に宣戦布告を行い、第三次世界大戦が勃発した。核戦争で人口が減っても最終的には人工子宮で増やせばよいため核兵器の抑止力が無くなった。
 相互確証破壊戦略の代わりに先手必勝の先制攻撃優先戦略が採用された。そして核戦争の当然の結果として人類は核の冬を経験することになった。成層圏に噴き上げられた土砂はジェット気流に乗って地球を覆いつくし、昼間の空を夜のように暗くした。
 最後の核兵器が落ちたのは一二月三十一日だった。除夜の鐘の代わりに核兵器がゴーン! 再び人類が初日の出を拝めるようになるのは約五十年後になるだろう。

 日本国政府は百名の女性を選抜した。
 ご承知の通り、核の冬が始まりました。ま、この気温低下と放射能汚染の中で生き残るのはキワメテ困難です。皆さんはこの秘密施設にある人工冬眠装置に入り、五十年間眠って核の冬を乗り越えてください。開発途上の技術ですが生存率は五十パーセント以上と考えていますので、ま、とりあえずご安心ください。次に女性を選んだ理由をご説明いたします。放射能で人間の遺伝子情報は損傷しています。そしてポピュレーションが小さいため、その影響は甚大です。Y染色体を持ついわゆる男性が精子を産生する限り、劣性致死遺伝子により個体群が絶滅する確率は、ま、少なくとも六割上昇します。従ってあなた方は覚醒した後、男性がいない社会を作る必要があります。
 そこで我国は男性の代わりに精子を作る新しい性を作ります。それはY染色体を持たない性です。彼らが男性と言えるかどうかはわかりませんが、彼らも人間であるということを信じてください。加計呂麻島のケナガネズミという動物もY染色体のないXo雄とXX雌で小さなポピュレーションを維持してうまくやってきたのです。人間にもできないわけがありません。ま、そのようなわけで、あなた方に人類の未来を託します。幸運を祈ります! では、いってらっしゃい!
 日本国最後の総理大臣は、拳銃で自分の頭部を打ち抜き、銀縁眼鏡が宙を舞った。それを見た救国の乙女たちは覚悟を決めて次々にシャワー室を通って無菌エリアに入り、氷の眠りに就いた。
作品名:新しい性別の誕生 作家名:花序C夢