松茸待ったけ?(続・おしゃべりさんのひとり言144)
松茸待ったけ?
タイトルが親父ギャグですが、うちの親戚の中ではよく口にされがち。
そろそろ梅雨になると、時期を間違えて生えて来る松茸があって、それを待ち望んでる人もいるからなんだよ。
半年前、「うちの実家の山は松茸の名産地だった」ってひとり言をしたけど、親戚の中には今も、松茸栽培の研究をしている人がいるんです。
通説では(松茸は天然でしかできない)とされてるけど、それは事実。
生きている赤松にしか生えないから、マツクイムシの被害で枯れた山には生えなくなっちゃう。
だからシイタケのような丸太での栽培や、ナメタケやシメジみたいに菌床栽培が不可能と言われてきたんです。←でもその情報は古いです。
スーパーにたくさんの種類のキノコが一年を通して並んでいるように、松茸も人工栽培の研究が進んでるようだ。
企業や大学の研究室でも、いくつかの成果が報告されていて、人工松茸が世に現れるのは間もなくです。
・・・なんて話は、子供の頃からずっと聞かされてましたけどね。なぜか、何度も何度も繰り返して。
数年前には、韓国で「日本に先駆けて人工栽培に成功」ってニュースで湧いてたけど、真偽はどうでしょう? あれからどうなった? 結局何も動き出さないんですよね。毎回、眉唾情報の繰り返し。
だから「松茸待ったけ?」とか言う人が親戚に何人もいるんですよ。
うちの持ち山に松茸が生えなくなって20年。ボロ儲けしていた以前の栄華を取り戻したいと思うけど、そんな夢はもう見られません。
山を再生して、松茸が生える状態にしたくても、松茸の売買には林業組合や農協が絡んで、個人の希望だけじゃ計画が動き出さないんですもの。
その原因が、繰り返し出てくる人工松茸の噂。人工栽培モノが世に出ると松茸そのものの価値が下がって、大金かけて枯れた山を再生する意味が無いし、誰もそれに投資したくないからなのだ。
天然松茸の値崩れ。でも、本当にそうなるかな?
うちの親戚で松茸の研究をしているという人は、人工栽培が成功しても天然モノの価値は下がらないと主張します。
現状だって、安い輸入モノが売られていても、日本産の松茸は高価なままだもん。
やっぱり品質が違うからだって。
でもでも、それも本当にそうなんだろうか?
確かに色が白っぽいカナダ産は、香りにちょっと癖がある気がするけど、僕の鼻じゃ、中国や朝鮮産だったら国内モノと香りはほぼ同じですよ。
その強さ加減は確かに違うと思う。採りたての松茸の香りはものすごく強いけど、スーパーの松茸はパックに鼻を近付けないと匂いがしないし。
でもそれは、どれだけ新鮮かというだけで、料理するとどちらも同じように感じるけどな。
それじゃ国産松茸の価値って、やっぱり『国産』っていうブランドが付いているだけのようなもんですよね。
と言う事は、人工松茸が全国で頻繁に栽培されてしまうと、もう誰も(一部のマニア以外)天然松茸に興味を示さなくなって、『松茸バブル崩壊!』だと思うんです。やっぱり。
今の世の中、誰が天然物のシイタケなんかに拘りがあります? それと同じだと思わない?
結局はどっちに転ぶかは、僕みたいな素人では、この先の動向を見てみないと解りませんけど。
親戚の人は、「ついに人工栽培に成功した。そろそろプレスリリース(新聞発表)の準備に入る段階」と言っていました。
(そうなの!?)って聞き返すより、僕は、
(本当かな?)正直そう思ってしまうよ。
(全国に先駆けてうちの親戚が?)ってね。要審議もんでしょ。実際に生えてるところを見てみないと何とも言えませんが。
今年、もしそんなニュースを目にしたら、それがうちの親戚ってことかもしれないけど、ひょっとして、そんなこと言ってる人、全国にいっぱいいるんじゃないのか?
でも話題性があっても、なかなか日の目を見ないのには、理由があると思います。
①研究中にたまたま生えただけとかで、人工栽培技術自体はまだ不完全(←これは実際にそう言う事実が多いと聞いています)
②単にもうろく爺さんのホラ話だった。(←これが一番多い噂だと思うけど、まさかうちの親戚、これじゃないだろうね)
③現存する松茸産地の農協や林業組合の圧力で、人工栽培の研究を阻まれたりしていないか?(←国産松茸の利権争いで、天然モノの産地が人工栽培モノに利益を取られるわけにはいかんでしょうし)
実は三つ目の理由が、うちの親戚の言い分なんです。
ここから先は、話に加わってた親族同士の勝手な想像なんだけど、
農協の融資が下りなかったり、研究を続けさせないように圧力がかかってるんでしょうかね。
研究の成果を発表しても、その権利を第三者に取得させないような契約が、農協や林組と交わされていたのかもしれません。
松茸がずっと高級食材な理由は、こんな強引な価格維持の努力にあるのかも。
一般的な商品は、大量生産、大量販売で安定させるもんですけど、松茸に関してはそうはさせたくないようです。
以前、実家の山で天然松茸を採取して卸していた経験がある僕は、姿形のいい高値が付く松茸の行先のほとんどが、超が付くほどの高級料亭だという事実をずっと見てきましたよ。
とんでもないお値段で店に出されているようでした。
僕が一本2~3万円で買い取ってもらった優良品は、最終的に一本10万円を超えてたんでしょうかね。それを何人前かの小料理にして、更に割高に売る・・・それだとすごく儲かるでしょうね。
とにかく国産松茸であれば、いくら高くてもステータスの為に食べたがる客層があるんでしょうね。
それに乗っかって大儲けする流通業者たちが、今後も安い人工栽培モノを業界として導入させたがるはずありません。
しかも松茸はシイタケのように加工して、出汁を取るとかの用途ってあまり見込めません。「香り松茸」と言われるように、味より香りがメインの食材ですが、全国的に『松茸の香り調味料』が売れる保証なんてないでしょうし。
むしろ松茸のニーズは、超高級であることこそが大事なんではないでしょうか。
そう言った業界の流通事情で、松茸価格の維持に力を入れてしまっている以上、人工栽培の研究は揉み消され続けて、いつまで経っても市場に登場しないままなのでしょうか。
それはとても残念に思います。
でもその親戚から、人工栽培に成功した松茸なんて、一本も貰ったことないけどな。
つづく
作品名:松茸待ったけ?(続・おしゃべりさんのひとり言144) 作家名:亨利(ヘンリー)