夢幻空花 二、 闇尾超からの贈り物
私と闇尾超の関係は幼馴染みで、所謂、竹馬の友であった。高校までは闇尾超とは同級生として私は過ごし、大学は別であった。学校が別になると闇尾超と私は自然と疎遠になってしまひ、音信不通であったが、私も闇尾超も何を考へてゐるのかは以心伝心の如くお互ひお見通しであったと思ふ。つまり、お互ひ会ふことはなかったが、それは、お互ひが今何に悩んでゐて、また、何を考へてゐるのかが手に取るやうに解ってゐたからである。それは闇尾超が書き残した大学Noteを読めば明らかであった。
――己に対して猜疑心が芽生えるともうそれは歯止めが利かぬ。それはそもそも私なんぞの存在自体が脆弱であり、己に対する負の連鎖は止めどなく続き、己を断崖絶壁まで追ひ詰めぬと私の気が済まぬのだ。さうして追ひ詰められた私が硫黄島のBanzai cliffでの出来事を再現するかのやうに『万歳』と叫びながら断崖絶壁から飛び降りるだ。そして、私は宙にゐる数秒間に吾が全人生が走馬灯の如く甦る中、恍惚状態で絶命する。不幸なことにその目撃者は、また、私自身なのだ。
などという言葉が書き連ねてあるその大学Noteをペラペラ捲っただけでも闇尾超の何故だか私の心奥へと一直線に襲ひかかり、私を懐柔するやうに私の首根っこを捕まへては、
――ぐきっ。
と、私の首を圧し折るその言葉の持つ圧力は相当なもので、弾丸が鉄板を打ち抜くやうに闇尾超の言葉は私を撃ち抜く。つまり、死んだものの勝ちなのだ。始めから勝負は決してゐるのだ。そんなことは百も承知で私は闇尾超から送られた大学Noteを読み始めるのであった。それは瞠目せずにはをれぬ言葉が鏤められてゐて、やはり、闇尾超は己を己の手で断罪したのは間違ひないのである。
作品名:夢幻空花 二、 闇尾超からの贈り物 作家名:積 緋露雪