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優しい悪魔



山井はTVで保険のCMが多くなったのを機に、妻に勧められて入ることにした。何しろ毎日何回も「入院したら1万円、入院しなかったら何万円が戻ってくるの、葬式の費用がどうの、一日たったの百何円とか聞かされているのだから。

まさか自分が交通事故に遭うなんて思っていなかった山井だったが、入院して実際にお金が貰えたのを、得したと思い始めた。一つだと思っていた保険を妻が二つ契約していたのだった。妻も味をしめて、また新しく複数の保険に入った。

当然月々の支払いがあり、生活は苦しくなる。小使いを減らされ、たまに食事を抜くこともあった。栄養不良から身体をこわし、また入院することになった山井は、今度は一日数万円が入ってきて、ある考えが浮かんだ。

「リストラで給料も減ってしまったサラリーマン生活をしているより、実入りがいい。よし、病気のプロになってやる」

山井は色々と本を読んで、勉強もした。病気を治そうとしたり、かからないように勉強をする人は沢山いるだろうが、病気になろうとして勉強しているのは自分だけだろうなあと思うと、何かのパイオニアになったようで、誇らしい気持ちも沸いてきた。

しかし、なりたいと思ってもダメな病気もある。そして自分から進んで発病しやすい糖尿病にターゲットをしぼった。少ない小遣いから食事は安くてカロリーの高いものを選んで食べた。無料(ただ)酒の機会があると浴びるように飲んだ。

努力の甲斐があって山井は糖尿病になった。当然生活態度は変えないので、どんどん病気は進んだ。さすがに、片目が見えなくなった時は落ち込んだが、自分は病気のプロなんだという自負で持ちこたえた。腎臓も機能しなくなり、透析に通うことになった。それらの病気を微妙な状態で保つことも病気のプロになった自分には当然のこととして成し遂げている。

また普段から自分を「ダメおやじ」と言っていた妻が天使のように優しくなったのも、大きかった。

一年の半分を病院で過ごし、半分を通院で暮らしながら、山井はもう自分が保険に入れないのにカタログを取り寄せて眺めている。


そして、山井はあの世にいってから、悪魔は優しい顔をして近づいくるのだということを知った。