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近頃おもうこと

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その9


59歳の会社の定年を間近に控えた年に突然夫が脳梗塞になった。
とても重症でこれまでの、少なくとも外面的には温厚な人間とはがらりと変貌してしまった。

このときはまだ敷地内の別棟に実母が暮らしていたので気分的には頼っていた。娘達が休みになり帰って来た時、夫は微塵もその様子がわからないほど大人しい父親の風を見せていたので、私が遭遇している恐怖の日常を知ることはなかった。

私が友達を求めて、話を聴いてもらいながらの生活が始まったのはそれからだった。主に付き合ったのは高校の同級生で、中でも二人の同級生は私の心の支えとなっていた。

夫が機嫌が良いときには遠くまでドライブに連れて行った。四万十川方面に向って広い道を走っているとき、自分が運転したいというので運転させたら左端を走ることが難しかったようで道の真ん中を運転するので私が交代したこともある。

退院間もないときには突然記憶が途切れたときもあったが、すぐに戻るだろうと私はそれほど気にはしていなかった。
病院の医師が言われたのは、脳の中の梗塞した部位が徐々に固まって治癒するのだということだった。

治癒までの過程には様々な奇異な症状が現れ長年続く。
家族はそうゆう大変な人間を抱えて生活することになる。

療養中の10年余りは普通の人間ではない、まるで猛獣と暮らしている気分だった。その時まだ私達は同じ家に居て、私は広いリビングでパソコンで小説を書いていた。ネットの中の友達数人と切磋琢磨して創作をし、又you tubeにアップロードするのも楽しかった。

沢山の人に助けられ、現実の恐怖を乗り越えた時期だった。

作品名:近頃おもうこと 作家名:笹峰霧子