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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
novelistID. 60014
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続・おしゃべりさんのひとり言/やっぱりひとり言が止めらない

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車に戻ってくると、加害者の男性がやっと車の外に降りてきました。でも車検証などを持ってパトカーに向かって行かれました。その彼に声をかけて、
「車の写真撮ってもいいですか?」
相手はまた頷くだけです。僕はその車のナンバーが写るように、ぶつけた箇所や現場の様子を撮影しました。すると相手も戻ってくると、何も言わずに勝手に僕の車の写真を撮られていました。
でもそれが面白いことに、ぶつかったのと反対側の左角の何もない箇所を撮影されていたんですが、僕は車内に戻っていたので、(アホか)と思って黙っておきました。
(礼儀をわきまえてないし、迷惑をかけたって気持ちもないようだし)当然僕は、この加害者の一連の態度が気に入りません。ですよね?

「お互いに連絡先を確認しておいてくださいよ。最近は警察に問い合わせても、個人情報お伝え出来ませんから」と、お巡りさんの一人が再び近付いて来て言われました。
僕はその相手の携帯番号を聞きに行って、ほとんど事務的に一回電話をかけて、通話履歴を相手に残しました。
この時も相手は運転席に座ったままです。そして「任意保険は入ってますか?」と窓越しに聞くと、無言で車検証の入ってるケースから保険会社の封筒を出されましたので、「住所を写真に撮ってもいいですか?」と聞いて、社名の入った封筒の写真を撮っておきました。
その後、もう一人のお巡りさんが近付いて来られ、
「この自賠責は去年の証明書です。今年の分ありますか?」と聞かれて、加害者の男性は暫く、書類だらけのグローブボックス内を探しておられました。
その様子を雪の降る中で見ていると、お巡りさんが、
「こちらはもう書類の確認が済みましたので、行かれてもいいですよ」と僕に言われました。という事は、それ以上聴き取りはされませんので、加害者の言う僕の急ブレーキ疑惑が、現場検証で記録されてしまったままでは困ります。
「急ブレーキの件なんですけどね、その車にはドラレコ付けられてるようなんで、映像を確認しておいてもらえませんか?」
と、お願いしたところ、大雪が降りしきる中、面倒そうに加害車両を覗き込んで、
「急ブレーキかどうか確認したいので、ドラレコ見せてもらえますか?」と聞いてくださいました。そこに僕も近付いて、
「前で子供さんを降ろされているところを見ながら待ってたんで、10秒くらい止まっていたはずですから」と言いました。
相手は焦っていましたが、
「自賠責の書類がない。そんなはずはないと思うけど、家かな~?」などと的外れなことを、ひとり言のように話されています。
「それは今見付からなくても、後から提出していただいても結構ですから」とお巡りさん。
「後からってどうやって提出するんですか」
「見つかったら、〇〇署に電話してください」
「え? 電話してどうするんですか?」
「どうするか指示されるんで、それに従ってください」
「見に来てくれるんですか?」
「いいえ、持って来てもらうことになる」
「え? そんな時間ない」
「事故の処理に必要ですので、必ず提出していただかないといけません」
「どこに電話するんですか?」
「〇〇署の交通課です」
「電話番号は?」
「自分で調べてかけてください」
「何で調べたら・・・」
こんなふうにどうでもいい会話が続きました。僕はそれを助手席から体半分入れて話されているお巡りさんの後ろで聞いていました。
(頼りないな。こいつ、かなりヤバいやつだ)そう思わずにいられません。その後ようやくドラレコの映像を確認することになったんですが、
「10秒なんてオーバーだろう」と、運転席でひとり言を言われているのが聞こえました。
(じゃ、急ブレーキって言ったのはオーバーじゃないんですか?)そう言ってやろうかと思いましたけど、そんな必要ありませんよね。
僕が停車してから、どれくらい前の車の行動を待っていたのか覚えていませんが、僕も適当に「10秒」と言ってしまいました。これは確かに自己弁護を含んだオーバートークです。咄嗟のウソのつもりはないんですが、敵対関係を作ってしまいましたね。でも急ブレーキで止まったのではないのは事実で、その映像が確認出来れば問題ありません。

その映像はすぐに再生されました。僕もお巡りさんの背中から体を突っ込んで、フロントガラスに設置された小型のモニターを覗き込みました。
そしてその映像には、遥か前を走る僕のX6の後姿が小さく写っています。赤いテールランプが点きました。だいぶ前でです。それは2秒ほどで消えました。そこから僕は、
「1,2、3,4,5,6,7」と数えたところで、(ズリズリ~・・・ドン!)とぶつかる映像を確認できました。
「7秒でしたね」と僕が言うと、
「ほら、10秒は盛ってますよ」だって。
お巡りさんは、車内に体を突っ込んだそのままの姿勢で、
「ああ、追い越そうとしたけど滑ってハンドルが効かなかったみたいですね。それでこの車の左前が相手の右側に当たったんですか。状況をドラレコで現認しましたんで、後続車スリップによる追突で処理します」とのことでした。
僕はコツンと当たったくらいだと思ってましたが、後ろの加害車両の方は結構はじかれていました。
(なんだ無茶な運転してやがったのか)これで僕が急ブレーキをかけたという彼の証言はウソだと証明されました。
「子供らに突っ込まなくてよかったですね」
僕はそう言いましたが、もし生徒たちにこの車が突っ込みでもしていたら、接触してないにせよ、道の真ん中で停車して子供を降ろしていた前の車にも、ある程度責任がありそうな気がしました。僕はその間に挟まれて、どういう立場になるんだろうか?

これで最終的に僕は安心してその場を離れられるようになった訳ですが、一応この後の流れを、この頼りない相手に確認しておきました。
「そちらの保険屋さんにも報告して、こっちに連絡貰えるようにしておいてください」
「でもキズは大したことないですよね」と言われました。そう思っても高く付くことを僕は経験から知っていますので、
「僅かな擦りキズですね。保険で払ってもらえるはずなので、1円もかからないですよ。そちらの保険の調査員が来て修理の額を計算されるはずですから、僕はそれを受け入れるかどうかだけです。僕も無茶な要求したりしませんから、穏便に済ませましょ」
そう笑顔で言うと少し安心された様子でした。そしてお巡りさんが、
「双方ケガはないようですし、これで終わります。この後もスリップには気を付けてください」
そう言われてちょっと気になったので、僕は相手のタイヤを見て、その側面の刻印を確認したところ『2514』と記載されていました。2014年の25週目(夏頃)に製造されたタイヤという意味です。
「これ10年前のタイヤですね。これじゃいくらスタッドレスでも滑りますよ」
とお巡りさんにそう言って、その場で解散しました。