続・おしゃべりさんのひとり言/やっぱりひとり言が止めらない
その123 隣は何をする人ぞ
あまり人のことを深く詮索するのは良くないですよね。
根堀り葉堀り聞き出そうとする人がいると、嫌な気がしませんか?
でも本人は興味本位で、その好奇心が止まらんのでしょう。
僕の場合もそれに近いものがあります。
よく人と話をする癖があるので、ついつい深入りし過ぎるってこともあって、後で反省なんてことに。
ただ知りたくて質問攻めにするんじゃなくって、相手に対してのイメージがどんどん膨らんで、それが当たってるのか気になって確かめたくなるんです。
自然に想像してしまうんです。こんなふうに・・・。
先日、隣の空き家に、あるご夫婦が引っ越して来られました。
ちょうど一年前に元の住人が出て行かれて、半年ほど前にその家を買われた5~60代くらいの方々です。
夏前に僕が自宅で庭の手入れをしていたら、その姿を目にされ、挨拶しに声をかけて来られました。
その時は奥様のお母様とご弟妹さんらを連れて、買った家の庭の草刈りに来られたそうです。
大した話はしなかったんですが、その時に旦那様はアメリカ人だとお聞きしました。
これはまた楽しみです。
たったこれだけの情報から、僕の勝手な想像が始まりました。
奥様はキビキビした話し方で、当然英語も話せるだろうし、しっかりした方だったのでキャリアウーマンだろうか。
ノーメイクだったけど、普段から基礎化粧もしていない感じだったので、日本人よりアメリカ人と一緒にいる時間が長い生活スタイルなんだろうな。
弟さんも妹さんも、近所にもいっぱいいる感じのごく普通の日本人。明らかに奥様だけ経歴が違う印象。
引越しは年末になるとのことで、その後は入居まで一度も来られませんでしたので、(きっと遠くから引っ越して来るんだろうな。アメリカから来るのかな?)なんて想像をしていました。
12月の初め、僕が仕事から帰宅すると、隣家のガレージに黒っぽい自動車が1台置いてありました。
そして、永らく丸見えだったリビングの窓に、カーテンが引かれて明かりが灯され、そこに大きな靴下をぶら下げた影が見えていました。クリスマスの飾り付けのようです。
(ついにアメリカ人が引っ越して来たんだな)そう思いました。
ガレージの車は佐世保ナンバーです。ということは、ご主人は米海軍佐世保基地の退役軍人かな?
アメリカに帰国するか日本に暮らし続けるかで、日本を選んだんだろうな。
きっとお子さんが日本に住んでるんだろう。
その内挨拶に来られるだろうし、聞いてみよう。
次の日曜日、車の手入れをしていると、大きい白人男性と前に会った奥様が近寄って来られました。
「How do you do?(ごきげんよう)」自分からこう話しかけて、自己紹介をしました。
ご主人はちょっと聞きなれない珍しい名前の方で、日本語はほとんど話せないそうです。
「私は少し英語も話せますから、困ったことがあったら何でも聞いてください」
そう言うと、奥様は急に笑顔になって、
「それは助かります。英語はどこで使われてたんですか?」
「ああ、15年くらい前までは、出張で世界中飛び回っていました」
お二人とも深く頷いて、挨拶代わりのお茶の包みを差し出されました。その包装紙に『嬉野茶』と書かれています。九州の銘茶です。
「九州から移って来られたのですか?」
「イエス」
「ネイビー(海軍)を退役されたんですね?」
「なぜ分りましたか?」
「車のナンバーが佐世保でしたし、日本語をあまり得意じゃないなら、アメリカ人のコミュニティで仕事をされてたんでしょ」
「その通りです。妻も軍で仕事していました」
「奥様はこっちのご出身なんですね」
「ええ、そうです」
「お子さんは?」
「息子が大阪で働いてるんで、こっちに引越すことにしたんです」
「前に庭掃除に来られてた時、奥さんのご家族がご一緒だったんで、きっと地元なんだろうなって思っていました」
「これからは私の実家の近くに住むことになったんで、主人は友達がいなくなるし、色々と心配だったんですが、どうぞよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします。そうだ、町内の組長さんのお宅紹介しておきますね」
「ああ、助かります」
「ご近所さん皆、いい人ばかりですよ」
スムーズな会話ができるのも、事前にいっぱい想像を膨らませておいたからなのです。