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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
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続・おしゃべりさんのひとり言/やっぱりひとり言が止めらない

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その164 殿下



【序章:仲人】

今まで話そうかどうか迷ってたけど、それは悪意ある裏社会の話ではなく、想像の追い付かない別次元というか・・・今回はレアな体験の思い出を話します。
あれは僕の人生で、最大級の緊張と興奮でした。

その前に余談ですが、『仲人』って何でしょう? よく解らない。
必要なのか。何を担ってもらうものなのか。
一般に結婚を仲立ちして段取りしてくれる人のようだけど、自分達の結婚を他人のアレンジに任せるってこと、今の世の中ではそうそうないと思う。
でも任せるなら誰にお願いするかっていうのは、一番重要なことかもしれませんよね。立派な人とか尊敬する人とか。それで初めて“お任せ”が成立します。
ちょっと昔なら、親戚とかがその役をすることが多かったみたいですけど、僕の結婚式の仲人は、日頃からお世話になっていたビジネスのボスが“勝手に”やってくれました。頼んだ訳じゃないのに、ボスがやりたかったんだと思います。
でもそれで本当に良かったと思ってる。ボスとのそんな関係のおかげで、後の人生でもかなり影響を受けさせてもらえたし。
僕は結婚式を海外で挙げようと、全部自分で調べて予約して色々やったけど、そこへ友達や仲間が大勢来てくれたのは、間違いなくボスが仲人をしてくれたからだ。
でも親戚は少ししか来れなかったから、今度は叔父の口利きで料亭を使って、日本での披露宴も行いました。
ま、僕の結婚式の話なんか誰も興味がないと思うのでこれくらいにしといて、今回のテーマは『仲人さん』・・・でもないな。
僕たちの仲人をしてくれたボスが紹介してくれた、ボスの結婚式での仲人さんについて、その人物との常識離れした想い出を少しだけね。
どんな人が仲人になってくれるかで、結婚式の格まで変わってしまう気がしますが、あんな人物だと、その後の人生で、ボスは一体どんな・・・?


【第2章:ワイン会】

僕とボスとは18歳離れてるんで、ボスが結婚した時代に、僕はまだ小学生だったから、当然ボスとは出会ってません。
大人になって、ボスの事務所で仕事のお手伝いを始めてた頃のある日、
「彼女を連れて来てくれるか?」
突然のボスのリクエストでした。
「僕の彼女をですか?」
理由を聞くと、
「知ちゃん、調理師免許持ってるんやろ?」
「ええ、子供の頃から料理好きで、結構上手ですよ」
「ちょうどよかった。料理教室やってほしいねん」
「へっ? 料理教室? どうかな、やってくれるかなぁ」
「魚を捌いたり出来たらありがたい」
「まぁ、それくらいなら。フグの免許も持ってますし」
「ほな良かった。ギャラ3万で頼むわ」
こんな何となくの会話で、当時交際中だった女房に、料理教室を手伝ってもらうことになったんです。
ボスは料理教室を事業でやってたんじゃない。仲間の交流の場として、ワイン会をよくやってたんだけど、ソムリエがワインを数種類セレクトして持って来て、それに合う料理のレシピをいくつか紹介されるんだ。それを参加者皆で作りながら、ワイワイと飲む集いでしたけど、会場ごとに20人くらい集まったもんです。
でも毎回、シェフのブッキングには苦労するんですよね。出張してもらうにもアシスタントが要るし、道具や仕込みも本格的過ぎて料理教室にならない時もあるし、そこで料理好きの僕の彼女にやってもらおうってアイデア。参加する素人に対して、レシピ通りに作れるように実演すればいいだけですしね。
でもこの時はいつもとちょっと様子が違ったんです。
その会場が京都にお住まいの、ボスの仲人をされた方のご自宅だったんです。
僕は当日、彼女と下準備のため、そのお宅に早めに伺いました。それがあの時の事と言ったら、もう引いたわー。

そこは有名なお寺の門前の高級住宅街の中でも、ひときわ立派なお屋敷でした。車は家の前に路上駐車するように聞いていたんですが、ボスによると「誰も苦情など言って来ないから大丈夫」だそうです。
この場合の「大丈夫」には説得力がありました。ダンプカーとかなら話は別ですけど、乗用車を停めておいても絶対に文句なんか言ってくるような雰囲気の住宅街じゃありませんでしたし、5台位なら家の塀の前に停められそうな広い道ですが、そもそも今日はワインの飲み会です。ほとんどの皆さんはタクシーで来られますから、多少は『大丈夫』でしょう。
ピンポンを押すと、すぐにお手伝いさんが小走りで迎えに来られました。
庭園を通って、一般的な玄関より立派な勝手口に案内され、そこから中に入ってリビングへと通されました。
その部屋の真ん中に据えられた本革製の大きなソファに、初老の御主人様が、でーんと座ってらっしゃいます。