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ガラスのギロチン

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3人目でやっとうまくいった。ギヨタンもたいへんだ。英語ではギロチンという。
 私はフランス陸軍大佐、アルチュール・ブーモン。アルジェリアのコロン(入植者)を守るためゲリラ掃討作戦をしている。ゲリラはジュネーブ条約違反なので裁判なしで処刑できる。日曜大工の腕を生かしてギヨタンを作った。首を落としたら胴体は豚の餌になるし、ゲリラは楽に死ねるし、ウィンウィンだ。
 今日は駅で爆破テロがあり、容疑者を逮捕した。拷問にかけたところ、3人の仲間の名前を吐いた。しかし上の人間は不明だった。捕まっても指揮系統がバレないように限られた人間関係でテロは行われているようだ。
 コロンの農園が襲撃されているという情報があり、私は一個大隊を率いて現場に急行した。農場主が殺されて、従業員の給料が奪われていた。逃げ遅れたゲリラ多数を射殺し、生き残った3名を捕縛することに成功した。例によって拷問だ。水責めは水泳を知らない砂漠の人々にとって恐怖以外の何物でもない。縛り上げて穴に入れるのは人によっては抜群の効果がある。閉所恐怖症というのだろう。高いところに吊るすのは高所恐怖症のゲリラに効果的だ。
本国から査察が入った。汚職・不正・人権侵害がされていないかというのがポイントだ。また世界中で植民地の独立を認める動きが世界中で進行中だったので、「本来的な仕事」をしている軍人を取り締まる動きがあった。インドシナ4国等が独立宣言をしたが彼らに国の統治などできるわけがない。民族自立なんて地獄の始まりだ。ディエンビエンフーの戦いにおける友軍の悲惨なクロニクルは、俺たちの涙をかき立てた。明日は我が身か!ふざけるな!
 苦労して植民地を開拓してきたコロンたちの人権や財産権はどうなる!本国フランスの政治家どもは、わずかな年金と引き換えに100万人のコロンにフランスへの帰国を求めていた。人気者の哲学者サルトルもこれに賛同していた。アルジェで生まれ育ち、まじめに産業を興してきた人々の人権や財産はどうなるんだ。絶対に受け入れられない。アルジェリア民族解放戦線は強盗以外の何物でもない!コロンたちがうらやましいから、力で奪い取るという野蛮人はギロチンで治療してやる。
 シャルルドゴール将軍は先の大戦での英雄である。軍の支持で大統領になれたのに、アルジェリアの独立に前向きの姿勢を見せている。この卑劣な裏切り者を暗殺しようという動きがあり、多数の将軍たちがこれを主導していた。もちろん私も蔭で支援している。
 査察の国会議員は言った。
「ジャポンは中国への植民地問題をこじらせてアメリカと戦争になって原爆を落とされました。植民地支配なんていう幻想は捨てましょう。どうか勇気を出して国を救いましょう。」
 この腰抜け野郎は部下たちに拉致されて豚の餌になった。
 サハラ砂漠の雲一つない青空をフランス空軍の大型爆撃機が迷いなくまっすぐ飛行していた。パラシュート付きの500㎏の物体を落とし、急降下しフルスロットルでその場所を離れた。閃光と爆風が爆撃機を追いかけて行った。米ソ以外の国、フランスが初めて核実験を行い、核兵器の保有宣言をしたのだ。日本政府は激しく抗議した。
 この一撃でフランスの外交政策、戦闘教義(ドクトリン)そして戦略はすべて変更を余儀なくされた。外務省はもちろん、軍の上層部も大混乱に陥り、「将軍たちのクーデター」と呼ばれる暗殺計画は棚上げになった。核実験はドゴールの命を救った。
 作戦名は「青色のトビネズミ」。爆心地には砂に含まれている石英が溶解して集合し、大小さまざまなガラスのオブジェが出来上がっていたそうだ。
 今やアルジェリア駐留軍はいたるところで、崩壊しつつあった。兵站なんてあってないようなものだ。援軍として派遣されていたドイツ駐留フランス軍NATO部隊の2個師団も引き上げてしまった。
 砂漠の夜空にガラス細工のような三日月がかかっていた。それは急速に落下してきて私の首に刺さった。そしてゆっくりと斜めに滑りながら首を斬り始めた。いつもの夢だ。さっさと殺せばいいだろう、と声に出すと三日月は消えていく。
 6000以上の農場が襲撃を受けて略奪され、女子供がさらわれていった。多くのコロンたちが身一つで地中海を渡って本国に帰っていた。私は飢えても乾いても苦しくてもできるだけのことをしよう。私はユダヤ人だからフランスに帰っても居場所はないのだ。
 窓ガラスが割れる音がした。近くで手榴弾が爆発したようだが、音がしなかった。というより、音が大きすぎて耳が聞き取れなかったようだ。拳銃に手を延ばそうとしたが、爆風のショックと破片による負傷で体が動かない。
 ボンソワール、ムッシュー。サヴァビアン?
 電灯で私の顔を照らながらゲリラは言った。
「大佐!俺たちの仲間がギロチンで世話になった。お前もあのギロチンで楽に死なせてやるぜ。」
作品名:ガラスのギロチン 作家名:花序C夢