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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
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登山をハイキングとなめてると(続・おしゃべりさん…113)

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登山をハイキングとなめてると



「お腹痛い~ぃ」
「大丈夫か? もうちょっとやと思うし、ガンバレ!」
こんな時に、娘に生理が来てしまった。
「まだぁ? 予定より時間かかるなぁ」
妻も心配そうだ。
「ルートは合ってるはずやけど、慣れてないとこんなに時間かかるんかな?」
僕はガイドマップ通りに進んで来たはず。
「私、今日誕生日やのに、暗くなるまでに帰れるん?」
普段温厚な妻も、機嫌悪くなりそうだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

数年前に始めた登山。
体が動くうちにいろいろやっておきたくて、家族で富士山にも登った。
最近は夏に、ロープウェイで登った後、山頂周辺をほんのちょっと散策できるような山に、ハイキング気分で行くことが多い。
でも始めた頃は本気でトレーニングをしないといけないと思って、春から秋のシーズンには、麓から山頂までの往復で、朝から夕方まで頑張ったりしてた。
その内の一回が、富士登山直前の最終調整を兼ねた真夏の、“忘れられないくらい辛いハイキング”となった。

以前、三重県の湯の山温泉から、地面までの高さ日本一というロープウェイで、御在所岳に登って太平洋と琵琶湖を見下ろせる山の紅葉を満喫したのを思い出し、またその周辺に登ってみようと思い立った。
その頃、富士登山の練習中だったので、歩く行程が長いルートを鈴鹿山系で探しつつ、初心者でも安心して登れる山を選んで、ホームページの滝が印象的だった宇賀渓から、竜ヶ岳(標高約1100メートル)を目指すことにした。
そのルートをネット写真で見ると、山の稜線をずっと歩くような道ばかりで、景色がすごくいい。
その稜線ルートを、『遠足尾根』と言うそうだ。こんなところを遠足で行けたら最高だろう。
富士山には木が生えてないので、日差しを遮るものが無いから、この山のように木の無いルートで練習をしたかったんだ。
それは最終調整にもってこいのハイキングコースだと思ったのに。

朝のまだ薄暗い時間に、山の中腹にある宇賀渓キャンプ場(標高250メートル)の駐車場に車を停めた。
朝早かったので、登山事務所が閉まっていて、僕らは入山カードに、家族三人の名前と連絡先、そしてルートと帰着予定時刻を書いて、設置されていたポストに入れて登り始めた。この手続きは大事だ。
登頂ルートは複数ある。
その事務所に置いてあったガイドマップを拝借し、見どころを確認して、登山ルートと下山ルートを決めていた。
それには、マップに記されていたポイント間の目安時間も参考にした。
一直線に登ると距離は短いが、険しい岩場やロープを使ってよじ登るようなコースとなっていたので、僕らはなるべく穏やかな迂回ルートを選択したはずだった。

スタート直後はいつもつまらない。
普通の舗装路で、杉林の山道は景色もよくない。そこを30分も歩けば、車道から逸れて登山道に入る。そうすると坂が急になったり、足場が悪くなったりする。そこを焦らずに一歩一歩ゆっくりと登るのである。
ゆっくり登るのにも意味がある。先ず疲れないためと、足場を踏み外してケガをするのを防ぐためだ。それと僕ら初心者には、ゆっくり歩くことで、足の筋力バランスを整えるという意味もある。
最初の休憩は林の中。まだ朝も早い時間だったので、羽化したてのアブラゼミが木の幹で薄緑っぽい白い羽を伸ばしている所が見られて、娘も喜んで写真を撮っていた。
この時点では水分摂取程度の休憩だけだ。
またしばらく登ると、少しの岩山がありペースは落ちるが、15分ほどでそこを抜けるとまた林の中、でも折角登ったはずが、下り道が長く続く。なんだか損してる気分だ。
この日僕たちは、トレッキングポールを二本持って来ていた。
それは登山用のストック(杖)だけど、まだ慣れてないからなのか、邪魔でしょうがない。
手に棒を持つより、周りの木や岩を掴んだ方がマシなくらいのルートなのだ。
1時間ごとに休憩を取りながら、4時間くらい登って、途中でシカに出会うことはあっても、他の登山者とは全く出会わなかった。
この時僕は、(登る時間が早すぎたからだ)と思っていた。
道のりは険しく、娘が疲れて機嫌が悪くなっていく。
「聞いてたんと違う。しんどい~」
確かに言うとおり、とても起伏が激しい道のりが長く続いている。
(おかしいな、初心者向けのコースのはずだったのに、所要タイムもガイドマップより全然長くかかってるし)
しかしその後、急に木が無くなり林を抜けた。灌木だけの草原のような尾根に辿り着くと、景色が良くなって休憩タイム。一口羊羹をいくつか食べると、娘の機嫌も直ってくれた。
そしてそこからが、楽しみにしていた『遠足尾根』だった。その眺望は最高で、遠くまで続く鈴鹿山脈の左右に琵琶湖と太平洋が見下ろせた。
頂上までもう少しだと感じるが、進めど進めど、上ったり下りたりの繰り返し。周囲の景色なんか見てる余裕がなくなってくる。
途中、雲に入ってが視界がゼロになったり、雨が降ったりしたが、風が強いのですぐに天気は回復した。(扉絵の写真参照)
霧が晴れると、急に上の方から下山グループが何組もやって来た。それで頂上が近いと分かる。
すれ違う時、勇気を振り絞って「こんにちは」
「こんちわ~」と返してくれると気分がいい。
こういう時、娘はいつも小声だけど、妻の声はハツラツとして大きい。