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端数報告7

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サイド6の監察官


 
現代社会ではテレビ局のニューススタジオこそが世界の中心である。正しくは国の中心だが、日本人は日本が世界の中心だと思っているのでそこが世界の中心となる。今に思えば2020〜21年の年末年始が、テレビが最もコロナによる世界の終わりを熱く叫んだ時であった。
 
画面に映る者らの顔には、《これだ。これこそが待ってた時だ。この番組を見てる者だけ生き残り、他局のニュースを見てるやつらは死ぬだろうけどそれでいいのだ》と黒々と書いてあった。おれは隣のばあさんが見てるテレビの音声だけを聞きたくないのに聞こえるために聞いてただけだからろくに見てもいなかったが。
 
でも聞いててそれがわかるし、たまにテレビをつけてみるとやっぱりそう書いてある。しかしもちろんテレビ局は世界の中心なんかじゃないし、国や社会の中心じゃないから、一般世間はそこで何が叫ばれようと落ち着き払っていたのだった。
 
と言うより、テレビの中の者らの叫びが支離滅裂であるために、オウムの教えを信じちゃうような者以外はおれの隣に住んでいたばあさん同様、
 
「こいつが何言ってるか全然わかんねえ」
 
と考えるだけなのだった。そして1月8日以降、そこで話す者らの声はどんどん頼りなくなってくる。
 
「ワクチンは効果の高いワクチンなのでぜひ接種をお勧めします。でも効果はまったくないので射っても効くことはありません。ヨーロッパには過去最大の〈波〉が迫っている可能性があると唱える専門家がいて、それが来たなら最大50万人の死者が出る可能性があるとのことです」
 
とか、
 
「またコロナの変異体が新たに発見されました。これに罹って発症すると後遺症が残る可能性があるとのことです」
 
なんて調子になってくる。隣のばあさんは相変わらずそれを熱心に見ていたようだがよくそんなもん見れるなあ。退屈じゃないのか。と壁越しに聞こえる音を、だから聞きたいわけじゃないのに聞こえちゃうから聞きながらおれは考えていたものだった。
 
再三書いてきたように、21年1月までのニュースはコロナが〈スペイン風邪〉や〈黒死病〉を遥かに超える災厄であり、〈波〉が来た時にほぼ人類が絶滅となる〈禍〉が始まる。それはそこまで迫っていて、おそらく三日後というところだ――なんて調子の話を毎日やっていたものだった。皆さんも憶えてますね。
 
が、〈8日〉以降に変わり、どんどんトーンダウンしていく。スペイン風邪や黒死病を持ち出すことはまったくなくなり、テレビで話す者らの顔には《これで終わってしまったら恰好つかないからせめて日本で10万くらい死んでくれ。そして世界で一千万が死んでくれ》と書いてあるのが読めるようになる。
 
画像:不肖・宮嶋踊る大取材線オウム石垣島セミナー アフェリエイト:宮嶋茂樹不肖・宮嶋踊る大取材線
 
これの後のオウム真理教みたいなもんだ。「ハルマゲドン」とは言わなくなるが、しかしへんてこりんなことをますます加速させていく。世界の終わりは来ないとしても、なんか起きてくれないと恰好がつかんことになるから。
 
アフェリエイト:池上彰コロナウイルスの終息は撲滅でなく共存
 
だからこんなこと言ったりする。何が書いてあるのか知らんが推して知るべしというものだろう。《死者や重症となる者がたったひとりでもいる限りマスクを外す者が出るのを許してはならない》だ。《脅威が完全に消えるまであと10年はかかるだろうがそれまでマスクを着け続けねばなりません》だ。『機動戦士ガンダム』の、
 
画像:カムラン・ブルーム アフェリエイト:機動戦士ガンダムめぐりあい宇宙編
 
こいつみたいなもんである。〈監獄実験の看守役〉の立場が楽しくてたまらない。この状況がずっと長く続いてほしい。だから「これが一枚破られますと」というような脅し文句を使うようになる。
 
そして[可能性]という言葉にすがり、それを振りかざすようになる。
「世界の終わりはどうも来ないかもしれないが、1万くらい死ぬ〈波〉なら迫っている可能性があります」
「今は毒が弱いけど、後で強い毒を出す型が生まれている可能性があります」
と。
 
しかしそんなんでいいんならもうなんとでも言えるだろう。ホラー小説の『リング』のように「テレビを見ることで感染する型が生まれている可能性があります」とでも。【可能性がある】というのはイカサマルーレットに狂った者には魔法の言葉なのだ。
 
「負けが込んだがここからガンガンとツキ出して、逆転できる可能性がある」
「もう勝つ望みはまったくないが、半分くらいは取り戻せる可能性がある」
「もう完全におしまいだけど、でも最後に一回くらい勝ってゲームを終わらせられる可能性がある」
 
というように。ギャンブルをやっちゃいけない人間がギャンブルをやるとこうなるという話だが、テレビで話す者達がみんなこうなった21年の春、例の東京都大田区のおれが住んでた外の通りを救急車がサイレン鳴らしてやたら過ぎるようになる。
 
一日中ひっきりなしだ。が、しかし何かおかしい。救急車のサイレンなのは確かなのだが聞き慣れたものとどこか違う。ハテ、どこが変なのかな。と不思議に思いながら何度か聞くうち「そうか」とわかった。
 
 
 
   ドップラー効果がない。
 
 
 
だ。救急車やパトカーはパトランプを光らす時でも本当の緊急時でなければサイレンを鳴らさない。鳴らす時には相当のスピードを出すから後にドップラー効果が残る。
 
が、ここにきて急にやたらと聞こえるようになった音にはそれがない。時速20キロくらいで道をゆっくり流してるのがあからさまに感じ取れる。
 
コロナの患者が出ているように見せようとしているのだ。どうも耳に挟む話じゃ、死者も患者ももうサッパリ出なくなって病院はガラガラらしいのに。
 
けれどもカムラン・ブルームとしては、一度握った権力を手離すことはできんのだろう。何しろもう友達はいない。ハルマゲドンを信じて石垣島まで行っちゃった者は、一般社会には戻れない。オウムが世界の中心と信じて留まる他にないのだ。
 
そうして小さなことでいいから、《尊師の教えが正しい》と世に示してやれることが起きるのを望むようになる。[東京都のド真ん中で毒ガスが出て10万くらい死ぬ]とかいった。
 
ために「君は生き延びることができるか」と言いながらマスクを着けたり手を洗ったりワクチンを射って見せたりし続けるが、《無駄と知りつつ〈禍〉を防ぐ努力は全力でしたのだ》という体裁作りに過ぎない。しかし、そんなの聞いただけで、
 
 
 
   「白いモビルスーツが勝つな」
 
 
 
とわかるようでなければ新人類と言えないのだと、『ガンダム』を見ればわかるでしょう。なんていうとこでまたおしまい。以下次稿。
 
作品名:端数報告7 作家名:島田信之