小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

オフ会行ったらタヌキが来た

INDEX|5ページ/5ページ|

前のページ
 




僕達はその後、時間も遅かったので、「帰ろうか」という話になった。でも僕は、スッキリしない気持ちを抱えていて、彼女に言いたい事があった。

だから、彼女の遠慮を押し切って会計を済ませ、店の外に出た時、迷っていた。

“勇気を出さないと…でも、本当に言っていいんだろうか…?僕達には、越えられない違いがあるのに…”

その時、“田野貫さん”が振り向き、僕に笑ってくれた。そして、こう言う。その声は、通りを走る車のエンジン音に、少し掻き消されていた。

「また、会えるといいですね」

自動車のヘッドライトが行き交う、チープな夜の街に、その言葉はあまりに清く響いていた。

僕は、「ええ、是非」と言った。その時には、迷いは少し薄れていた。





家に帰って布団に入ってから、色んな事を考えていた。でも、僕はこんな風に考えた。


“親しい友だち以上になれない違いがあっても、僕は、彼女にまた会いたいな…”

眠る前にちょっと照明を落としただけの部屋の天井は、薄赤い常夜灯に照らされ、ぼーっと光った。

“狸でもいいなんて言わないけど、僕と彼女が親しい友人同士になったのは事実だと思う”

仰向けになっていた僕は、自分の片手を天井に向かって差し上げ、自分が人間の姿をしている事を確かめた。でも、そうしていても、あまり安心はしなかった。

“タヌキさん、僕に気にして欲しくて、美人に化けたのかもしれない…”

そう考え掛けてしまった時、僕は思わずがばりと横向きになって布団を抱えた。

“いやいや!それは俺に関係ないだろ!きっと、落ちてた写真とか見ただけだって!”

狸がどんな風に化けるのかなんて知らないけど、とりあえず、化けた狸にいつも邪な理由がある訳じゃないのは知った。かもしれない。

“それにしても…可愛かったな…今は、お母さんと一緒か…”

僕はもちろん、いつまでも彼女と過ごせるなんて考えて居なかったし、次に会う時が来るのかも分からなかった。でも、ほんの少し、前とは違った楽しみが出来たのが嬉しくて、東京のどこかの林で、親子の狸が丸まって眠っているのを想像していた。


そしていつの間にか僕も、眠ってしまっていた。




おわり