circulation【3話】黄色い花
きっぱり断れればいいのだが、居候という私の立場上、良くしてくださっているフローラさんに失礼なことは言えなかった。
例え、私に失礼な物言いをされたところで、フローラさんは相変わらずにこにこと接してくれるだろう。
それでも、いや、それだからこそ、彼女にはなるべく感謝を込めて接したいと思っていた。
「そ、それよりも、私が食事の支度をする間、フォルテの面倒をお願いできますか?」
フローラさんが嬉しそうにライラック色の瞳を細める。
「ええ、任せておいてちょうだい~♪」
軽い足取りで、屋根裏へと向かうフローラさん。
フォルテ、ごめんね。少しの間フローラさんをお願い……。
心の中でフォルテに謝って、私は料理に取り掛かった。
「お昼過ぎに出るくらいなら、翌朝の方がいいんじゃないの? 外で泊まる回数が減らせないかしら?」
玄関先で、フローラさんが名残惜しそうに二人に声をかける。
「ザラッカまで二十時間以上かかるから、どうせ二泊はしないといけないのよ」
デュナが答えると、スカイが横から
「まあ、ねーちゃんは金に汚いから一泊は野宿だろうけどな」
と付け足す。
「文句があるなら、あんただけ外で二泊してもいいわよ?」
というデュナの言葉に「なんでだよ!」と突っ込みを入れるスカイ。
そんないつも通りの二人を、私の隣からフォルテが見上げていた。
「じゃ、二人とも、家の事は任せたわよ」
デュナが私達の頭を軽く撫でる。
「うん。気をつけてね」
二人が戻ってくるまで、家の事は私が何とかするから。という気持ちを込めて、デュナの言葉に強い頷きで答える。
「行ってくるな」
と、スカイもフォルテの頭をポンポンと撫でた。
「二人だけで本当に大丈夫? 気をつけて行ってくるのよ~」
フローラさんが実の子達を抱き寄せて別れを惜しむ。
むしろ、お荷物の私やフォルテがいない、二人だけのパーティーの方が、色々と効率も良さそうな気がするが、そこは言わないでおこう。自分が落ち込むだけだから。
フォルテは、まだまだ心ここにあらずといった状態だったが、なんとか二人をぎこちない笑顔で見送ることが出来た。
デュナ達の姿が小さく小さく遠ざかって、村の端へと消える。
デュナは、水中でフォルテの額に浮かんだ文様についても、ザラッカで調べてくると言った。
その結果と、ファルーギアさんからの報酬を楽しみにする事にして、私は、ひとまずフォルテとフローラさんを家の中へと促した。
作品名:circulation【3話】黄色い花 作家名:弓屋 晶都