小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

circulation【3話】黄色い花

INDEX|13ページ/15ページ|

次のページ前のページ
 

 こんな風に、もう、どうしようもなくなった時に……。

 ふっと、フォルテが目を開く。
 ごくり。と喉を鳴らしたのは誰だったのだろう。
 それはとても長い時間に思えた、一瞬の出来事だった。


「「「フォルテ!」」」

 三人の声が重なる。

 寝ぼけているような雰囲気のフォルテが、のそりと起き上がる。
 それに合わせてスカイが草の上にフォルテを降ろした。

 ふらふらとプラチナブロンドの頭を揺らしながら、数度ゆっくり瞬きをする。
 涙で腫れぼったくなった目を、片手の甲で拭うと、フォルテはもう片方の手が動かないことにやっと気付いたようで、腕を辿ってこちらへと視線が動く。
 フォルテの手は、まだ私が固く握り締めていた。

 そのラズベリー色の瞳と目が合う。
 私の事を……覚えているだろうか。
 もし、その小首を傾げられてしまったら……。

 息が、苦しい。
 心臓が破裂しそうだ。
 けれど、今、ここで目を逸らす事は出来ない。

 じわりと何かが滲むように、表情の読み取れなかったフォルテの瞳が、悲しみに染まってゆく。
「……フォルテ……?」
 フォルテは、涙を拭っていた手を真っ直ぐ私へ伸ばすと、そのまま抱きついてきた。
「ラズぅ……」
 大きな瞳に、また大粒の涙が浮かんでいる。
 その小さな頭を大切に抱き寄せて、震える背中を繰り返しゆっくり撫でる。

 嬉しくて、嬉しくて、とても悲しかった。

 フォルテは私達を忘れないで居てくれて、だからこそ、思い出してしまった辛い光景も、忘れることが出来なかった……。

 そうか。
 全てを忘れてしまった時のフォルテには、もう何も残っていなかったのか。
 楽しかった記憶でさえも、悲しい色に染まって見えて、手放してしまったのだろう。何もかもを。

 それは、言い換えるなら、今のフォルテには、忘れたくないと思える物が確かにあったと言う事になる。

 辛い事実を突きつけられても、フォルテが守った物。
 それが私達である事は疑いようが無い。

 つまりは、今、フォルテを泣かせているのは私達で――……。

 唐突に、頭を鷲掴まれて思考がストップする。
 見上げれば、デュナが背後でなにやら威圧的なオーラを出していた。

 あ、あれ……? 何か怒って……る……?

 デュナにたじろいでいる私を、頬杖をつきながら眺めていたスカイが苦笑しながら言う。
「素直に喜んどけってさ」
「あ……。うん。そうだ……ね……」
 言葉の終わりが、小さくかすれて震える。
 デュナとスカイに微笑を返したつもりだった。いや、微笑みは返せたと思う。
 ただ、唐突にこみ上げてきた涙が止められなかった。

 デュナとスカイが苦笑する。
 青い髪をほんの少し揺らして、困った顔で笑う二人は、とてもよく似ていた。

 胸で泣きじゃくるフォルテの、小さく震える体が熱い。
 服にじんわりと滲み込んでくる涙も、とても熱かった。
 ああ、そういえば、フォルテが今びしょびしょにしつつあるこの服は、スカイの服だったっけ。
 また全部洗濯し直さないといけないな。

 そう考えてから、自分がとても落ち着いていることに気がつく。
 涙はまだ止まらないが、これはきっと、心配しすぎていたところでホッとして決壊してしまった涙だ。
 思うに、悲しい涙ではない。
 ……もしかしたら嬉し涙というのはこういう物なのだろうか?
 今まで、自分は嬉し泣きというのをしたことが無いと思っていたが、これがそうなんだとしたら、確か前にも一度……。

 いつだったっけ、あれは……。

「ラズ、中に入りましょう」
 再度顔を上げると、三人が立ち上がってこちらを振り返っていた。
「うん」
 頷きを返して、私達は短い旅からようやく帰宅した。