元禄浪漫紀行(51)~(57)【完結】【改訂】
光る丘には蓮が元のように咲いている。皆笑っている。俺は池の淵で自分の花を目指していた。辺りに香が漂う。ずっと変わらない。
「お前さん」
声に振り向くと、おかねが立っていた。彼女は勝山が気に入っていた。正徳を過ぎてもそのままだった。
「ああ」
花の綻ぶ音が聴こえ、俺はおかねを腕に抱く。
「ねえ、お前さん、ずいぶん名があるじゃないかさ」
「ああ」
「善さん」
「ああ。おかね。言った通りだったろう?」
俺は善助だ。昭だ。秋兵衛だ。俺は喜一丞で、その時おかねは雲露だった。俺たちはいつも一緒だった。
今やすべては透き通り、煙も炎も遠く、近い。この手に撰み、我は女房とここに来た。
「秋兵衛」
「おや、怒っているのか?おかね」
我の中で女房はふふふと笑ふ。
「怒ったってしょうのないことさ」
「それもそうだ」
うふふ。女房は笑ふ。我も笑ふ。木魚の音聴こゆ、阿弥陀が我に告ぐ。
「くああ」
女房の 欠伸こそ我 望みなりけり
おわり
作品名:元禄浪漫紀行(51)~(57)【完結】【改訂】 作家名:桐生甘太郎