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エーディト姫救出譚

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……エーディト姫は目を覚ました。
 剣と剣がぶつかる音が聞こえている。
 見回せば、そこは依然と魔王の玉座の間(ま)の、奥に位置する部屋。その寝台の上。
(私が目を覚ましたってことは、魔王のやつが息絶え絶えになってるんだわ)
 彼女は考えた。
(このまま寝て待ってよっと。あ~勇者様、早く来てこの手の話で定番のお姫様抱っこで連れ出して!)
 胸を高鳴らせる彼女のもとに、魔王と勇者のやりとりが聞こえてきた。
「さ、さすがだ勇者よ……ワシも敬服せざるを得ない」
(やった~勇者様!)
「しかし、これで勝ったと思うなよ。キサマには弱さがある。この先は乗り越えられまい」
「何だと?」
(きゃ~勇者様のイケボイス! そうだ! 何だっての負け犬!)
「確かにキサマは強い。しかしキサマは、強力な呪いによって魔法でも治せぬぎっくり腰に怯える男……プリンセスを抱きかかえて、ただで済むかな?」
(!?)
「……実は俺は、魔王のお前より彼女こそが最凶大魔王だと思っていた」
(わ、私が真のラスボスぅ!?)
「だから袋に詰めて、引きずって連れ出すことも考えた」
(悪役による誘拐シーンかよ! いや悪役でも肩に担いでくれるっつの!)
「でもそれはボツにした。結局、お姫様抱っこ代行業者を連れてきているぜ」
(おかしな勇者が来ちゃった! 私がヒロインの英雄譚おかしくなっちゃった!)
「何と……ソイツら全く戦闘に参加しないと思ったら、そんな仕事のやつらだったとは」
(『ソイツら』って、そんなのが何人来てるんだよ!?)
「一人が疲れたら次の一人。ワンフォーオール以下略。なあみんな!」
「ウォオーーーーー!」
 魔王の間がどよめいた。
(すっごい来てるよ! 私をお姫様抱っこする権利が伝説級の激安だよ! 激安王、もとい激安王女だよ!)
「勇者よ、ワシの……負けだ」
(私も負けたよ! これ何か「最も大勢の男に抱かれただらしない姫ランキング」みたいなので、私がみんなブチ抜くやつだよ!)

 勇者たちが奥の間に進むと、可憐な、華奢な女性が一人立って、おどおどとしていた。
「あ、すみません……えと……あ、あの私、普通に自分で歩けますんで……」
 イケメン勇者はにっこりとした。
「う~ん奥ゆかしい! さあみんな、我らがエーディト姫を大事に運んでくれ!」
「うわーん神様助けて!」

(了)
作品名:エーディト姫救出譚 作家名:Dewdrop