運命
青年は転職活動をしていたが上手くいかず、ふと、占い師に見てもらおうと思い立った。
キャリアコンサルタントと面談するのではないから、現実性のある、具体的なアドバイスは特に期待しなかった。せいぜい気分転換に、あわよくば人生のヒントに……という姿勢だったが、果たして収穫はあるにはあった。
「あなたの前世は、ヨーロッパの貴族です」
占い師が真顔でそう言うと、青年は苦笑いした。
「お上手ですが、誰にでもそう言っているんでしょう」
「いいえ、そんなことは決してありません」
占い師は真顔で続けた。
「あなたの前世は、ヨーロッパの貴族。それも、位が非常に高いです」
「それはそれは、本当にありがたいことです」
占い師は、あいにく、この他には大したことを言わなかった。
しかし青年は、占い師が真顔を崩さず青年の自尊心を癒してくれたことに感謝しつつ、気持ちよく料金を支払った。
青年は得た職場で勤続しており、しかしまだ家庭を持つには至っておらず、スナックや風俗店などを楽しんで暮らしていた。
青年は前世が位の非常に高い貴族だと言われたことを話のねたにし、実際羽振りがいいのもあって、女の子たちも青年を「貴族さん」と呼んでおだてることにやぶさかではなかった。
さて、そういうある日、青年は耳かき店を訪れた。
その日も女の子に膝枕をしてもらい、耳を気持ちよくかいてもらう。
雑談ものどかに弾んでいたところ、自分の顔の間近に女の子の胸が迫っているのを機に、青年はふっと言った。
「知ってる? 中世フランスの貴族女性って、流行ファッションで胸を丸出しにしてたんだって」
すると女の子は内心「セクハラやん、度が過ぎたら出禁やん」と思いつつ曰く、
「もう、貴族さんのエッチ!」
そして冗談めかしてチョップを青年の首にえいっと入れると、入りどころが悪かったのか、せっかく転生したフランス最後の絶対君主ルイ十六世はまたしても断頭台にやられてこの世を去った。
(了)