ライオンになりたくて
二匹の猫……黒猫と白猫が話している。
黒猫が言う。
「ボクもういい歳なのに、ピアノさんから舐められてるような気がするんだなあ」
黒猫にとって、「銀縁さん」「ピアノさん」とはそれぞれ飼い主夫婦のことである。
白猫は毛づくろいを止めて言った。
「吾輩でよければ聞いてやってよいぞ」
「はい。ピアノさんなんですが、ボクもういい歳なのに、ずっとねこじゃらしを振ってくるんですよ」
「ふむ」
「でもせっかく振ってくれるので、付き合わないと悪いと思って……」
「そんなものは、無視すればよいではないか」
「でも、ねこじゃらしすっごく楽しいので……」
「それではよいではないか」
黒猫は頭をかいた。
「たはは……」
白猫は呆れつつ、その博識でもって、ひとつの連想に至った。
「クロ君は、『ライオン』のことは知っておるか?」
「いえ、分かりません」
きょとんとする黒猫に、白猫は偉そうな感じで言った。
「ライオンとは、吾輩たちと姿が似ているが、ニンゲンを含む全ての生き物から敬われている存在なのだよ」
「それは素敵です! ボクたちとは何が違うのでしょうか?」
「とにかく、巨躯である」
「キョクですか?」
「図体がデカいのだよ。吾輩たちの何倍もデカい」
「そっ、そんなに!?」
白猫がうなづくと、黒猫は興味津々で尋ねた。
「吾輩さん教えて下さい! ボクもその、『ライオン』になれないのでしょうか?」
「……ライオンの子供の姿が、吾輩たちと本当によく似ているのは知っておる」
白猫は答えを濁したが、黒猫は納得できなかった。
「う~ん、食べ物の問題なのでしょうか?」
「恥ずかしながら、吾輩もはっきりしたことは分からない。検証したことが無いのでな」
「……」
「ただ、可能性は無いとは言い切れない。可能性はな」
すると、黒猫は目を輝かせた。
「じゃあ、ボクが挑戦してみますよ!」
* * *
その日の朝も、奥さんは、飼い猫に顔を叩かれた。
「……ハイハイ……も~、分かったわよ」
奥さんがしぶしぶ布団から出てのろのろと歩いていって、黒猫が飼い主を見張りながらついていく。
奥さんがネコ缶を取り出してキコキコと缶切りを入れ、黒猫が飼い主の動作を見張りながら待つ。
「あんた、ホントデッカくなっちゃったね」
奥さんがお膳立てを終えると、黒猫の視線は食べ物に移った。
奥さんは朝イチの歯磨きに向かいながらつぶやいた。
「空腹からお膳立てまで、私を見つめるデブネコ」
(了)
作品名:ライオンになりたくて 作家名:Dewdrop