小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

人生×リキュール マンダリン・ナポレオン

INDEX|2ページ/3ページ|

次のページ前のページ
 

 持ち家やマンションなんかを購入してたら余計に財産分与はどうするだとか、家同士で結託してる場合は親族にどう説明するだとか面倒臭いことがてんこ盛りなんだって、つい最近離婚した飲み友達が言っていた。離婚届一枚書けばいいって話じゃないんだって。
 だからつい、いいよって言っちゃったのよ私。
 このままでいいよって。
 いいわけないんだけど。
 一年そこらじゃまだ慈悲を出せる余裕があったってこと。
 それで、あなたは私のその言葉に甘えてズルズルと関係を続けたのよね。
 つまり、最低な男に成り下がった。
 でも、仕方ない。あなたを愛してるから、愛する人を辛くさせたくないのなーんて成りきっちゃって。
 愛のために苦しみもまた、なーんて気取っちゃって。
 冷静に考えれば、都合のいいだけの女なんだけど。まあ、その時は浸ってたのよね。完全に。
 障害がある方が燃えるわなーんてバカ丸出しのこと思っちゃって。いいんだけど。
 だけど、一つだけ許せないことがあった。
 あなたが奥さんともセックスしてるってこと。
 それ知った時、怒りと嫉妬であなたの家に放火でもしに行きそうな勢いだった。
 あなたはすっかり調子こいて、世の中の不倫男の典型的な言動を繰り返すようになって、私が好きだったあなたの面影はすっかり形を潜めちゃったから、正直冷めたり萎えたりすることが増えていった。
 それでも、不倫って、常に嫉妬や誰かと天秤にかけられているような気になってしまう代物だから、わかっちゃいても辞められないのよ。
 まるで自分の女としての価値そのものを天秤にかけられているような気になってきて、勝負心や負けず嫌いの性質がやたらと呷られる。そんなことないのに。
 あなたと別れることイコール自分を全否定される方程式ができ上がっちゃって、不安に駆られるようになったら末期。
 それまで興味なかったくせに、急に離婚を強請るようになるのよ。
 そうすると、あなたは不倫男の見本よろしく判で押したように冷たくなったわね。
 今更なに言ってんだコイツ。面倒臭いことはお断りだってね。
 口にしなくてもわかってたわよ。昇進して仕事も絶好調だったからね。
 私は再び苦しみ出して、仕事も休みがちになった。
 あなたは心配して何度も連絡してきてくれたけど、元凶があなたなだけになんの慰めにもならない。
 彼女が現れ始めたのは、そんな時だった。
 彼女って、誰だかわかる?
 そう。あなたの奥さん。
 最初に彼女が現れたのは、会社を欠勤した三日目の昼だった。
 驚いたと同時にどうしてバレたんだろうって疑問に思った。
 とは言え、玄関口で追い返したら不自然だから、とりあえず部屋に招き入れたわ。
 だけど、彼女は終始笑顔を崩さずに私を労る言葉をかけてくれて、それが却って不気味なくらいだった。
 一時間ばかりお茶して帰っていったけど、彼女がなんの目的で訪問してきたのかは不明のままだった。
 再び彼女が現れたのは、それから一週間後の夜。
 部屋に引き蘢ってマンダリン・ナポレオンを飲んでたら、いきなり襲撃されたの。
「良かったらどこかに飲みに行きませんか?」って。
 あなたのことを聞いたら、今夜は残業で遅くなるって連絡が来たからって言ってた。
 でも、おかしいじゃない。
 もう20時を回ってた。
 うちの部署は営業だからそんな遅くまで残業なんて有り得ない。
 ピンと来たわ。
 私は彼女の目を盗んで急いであなたに電話した。
 案の定、留守番電話。
 私で味を占めたあなたは、他の相手を作ってたのね。それが発覚して、怒りではらわたが煮えくり返りそうだった。
 そんな私に気付かない彼女が更に迫ってきた。
 多分、旦那のことで思うことがあって、それを誰かに聞いてもらいたかったのね。チョイスした相手が悪かったけど。
 仕方なく出かけることにしたわ。
 二人で新宿に繰り出して、朝まで梯子した。
 彼女は帰りたくないと言うし、私も1人でいたらなにをするかわかったもんじゃなかったから、ちょうど良かったわ。
 聞けば、彼女とあなたはお互いに仮面夫婦だって言うじゃない。
 チャンスって思ったけど、時既に遅し。
 あなたはとっくに他の女としけこんでて。腹立たしいったらありゃしない。
 その後も頻繁に彼女と逢引するうちに、事情がわかってきた。
 彼女はあなたの浮気癖を前から知っていて、だから妊娠してあなたを縛ろうと思ったみたいね。だけど失敗。
 子どもにも見捨てられたのって泣いてたわ。可哀想に。
 私は彼女にだんだん情が沸いてきた。
 利用された者同士なにかできないかしらって私が思案し始めた時、彼女が告白してきたの。
「一目見た時から好きでした」って・・
 もう気付いてるわよね?
 そう。
 私は、君の信頼する先輩。
 会社での私は、だいたいアルマーニのスーツにネクタイ、リーガルの革靴がお馴染みの姿。
 眼鏡を神経質に押上げたり、コーヒーはブラックだったり、女子社員に優しくしたりして社会に擬態している。
 君が気付かないのも無理はない。
 歌舞伎町を生業にする私の夜の姿は別人だからね。
 東北出身の母の影響で元々体毛が薄く、加えて線が細いのと美脚なのが私の強み。
 こう見えて、夜の世界では結構名の知れたホステスなのよ。
 さすがに性行為で気付くかと思ったけど、君が部屋を暗くするのもアナルプレイも興奮する変わった性癖を持っていたお陰で長続きしたってわけ。
 すぐにわかったわ。コイツ、純情そうに見えて案外風俗行ってんなって。
 でなきゃ、あんなSM紛いのマニアックなセックス有り得ない。
 あんな性玩具、素人が持ってるはずないわよ。まあ、私も楽しませてもらったんだけど。
 でも、これだけは言っとく。
 今となっては懐かしいけど、私、本気だったんだからね。
 あなたを本気で愛してた。
 あなたとなら、地獄に堕ちてもいいと思ってたわ。
 でもね、今、同じ台詞をあなたの奥さんから言われている。
 過去形を現在進行形に変えて毎日のようにね。
 彼女、あなたがいないのをいいことに、毎晩夜ばいに訪ねてくるのよ。
 困っちゃうわ。
 私もカミングアウトしてない立場上、理由を話す訳にもいかないからって拱いてたら、襲われてしまった。
 こんなに獰猛な肉食獣のような奥様をお持ちなのに満足できないなんて信じられないわ。
 家に遊びに行った時の上品で大人しそうな様子とは大違い。
 正直、ビックリしてる。
 いえ、もしかしたら彼女も社会に擬態していた口なのかもしれないわね。
 そう思うと、好感が持てるから不思議ね。
 それに、随分と床上手なのね。私もうっかり男に戻っちゃうくらいよ。
 増々、あなたの浮気性の原因が不明だわ。
 そんな彼女の手練手管にすっかり魅せられてしまって、最近どっちつかずになっている情けない私。
 彼女はすっかり押し掛け女房になってるけど、まだ私の本性には気付いてないみたい。
 本当の私を知ったらさすがに出て行ってくれるでしょう。それを期待して放置しているわ。
 あなたと離婚する気もないみたいだし。
 あなたたち夫婦は、こんな壊滅的な状況であってもなにかの鎖で繋がれているみたいね。
 もう関係ないけど。