いきなりアルパカ
ピカピカの新居で、ホヤホヤの新婚夫婦が二人きりでくつろいでいた時だった。
ピン、ポーン。
新妻が立ち上がってドアホンを確かめに行くと、そこには一頭の人外が映っていた。
「こんにちは、アルパカです」
人外はそう自己紹介した。
新妻はいぶかしがりながら、一応、淡々と尋ねた。
「どういったご用件でしょうか?」
「ボクを飼って下さい」
(せっかく次男坊と結婚して、夫婦水入らずなのに……)
と思いながら、新妻は面倒くさそうに答えた。
「……申し訳無いですが、間に合ってますので」
「誤解しないで下さい。『買って下さい』じゃないから、お金は要りません」
「エサ代はずっと要るんですよね。帰って下さい」
「とってもカワイイですよ。六食昼寝付きにしてもお釣りが来ますよ」
(新妻の私でも兼業主婦なのに、ローンありありの新居でどんだけラクする気なんだよ)
と心の中でツッコミながら、新妻は突き放した。
「帰って下さい」
「今日から飼育して下さいよ……調教して下さいよ」
「何か気持ち悪いからいいです」
「やましいことが無ければ、ボクを世話すべきです」
「帰って下さい!」
と、そこに新夫(にいおっと)がやってきて、控えめな声で尋ねた。
「Tちゃん、どうしたの?」
新妻は、同じく控えめな声で答えた。
「見て? 何かヘンなのが来てるの」
「……アルパカ?」
「すごく飼ってくれ飼ってくれ言ってくるのよ」
「さっさと切っちゃいなよ」
すると、アルパカが大きな声で割り込んできた。
「お宅やましいことがあるんですよね! ボク知ってますよ!」
新夫は保留を押した。
新婚夫婦は顔を見合わせた。
「何なのこのアルパカ? 俺たち脅迫されてるの?」
「警察呼ぼっか?」
「うちにやましいことがある、それをこのアルパカが知ってる、って何? Tちゃんここまで何話したの?」
「本当に、飼ってくれ飼ってくれ言われて断り続けただけだよ」
「このアルパカ、やけに自信ありげに脅迫してきてるよね。Tちゃん何か知らないの?」
「初めて見たし、知らない」
「ホントに?」
「知らないって! Oくんこそ何か心当たりがあるんじゃないの?」
「俺も何も無いよ! っていうか何でこんなアルパカに、俺たちの新婚生活にヒビを入れられないといけないんだよ」
「それもそうね」
ふたりは、改めて団結した。
「ねえ、このアルパカ人権無い畜生なんだから殺(や)っちゃわない?」
新夫は笑った。
「Tちゃん怖いよ。人間の言葉をしゃべってるのは気が引けるよ」
「今晩アルパカのステーキにするから、Oくん殺ってよ」
「とにかく、さっさと帰ってもらおう」
そして新夫は保留を解除して、強い口調で告げた。
「うちではアルパカは飼わないし、やましいことも全くありません。帰って下さい」
すると、アルパカはなじるように言った。
「あなたたち『NOアルパカ』ですよね!?」
新妻も改めて出て、言い返した。
「ハイハイ、ノーアルパカですよ! それが何か?」
「ボク知ってますよ! ……『NOアルパカ』は罪を隠す」
「……は?」
「以上です」
「それ聞き間違いだと思うよ!?」
(了)