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無未河 大智/TTjr
無未河 大智/TTjr
novelistID. 26082
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D.C.III.R.E

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SEQUEL:I will meet you 夢見るままに恋をして





 この世界はいつも、移り変わっていく。
 そこに私がいること、それは変えようのない現実。
 どんな世界を生き抜こうとも、そこにあった笑顔は忘れない。



     ◆     ◆     ◆



 それは存在しなかった記憶。
 私が体験したことのない記憶。
 だけどはっきりとした輪郭のある記憶。
 私はそれがリアルだと感覚的にわかった。
 でもそれは荒唐無稽なお話。
 ロンドンの地下にある、魔法使い達のための学園都市で過ごした、恋人との短い期間。
 ある程度の分別を覚えていた私には、それがリアルだったとしても、イミテーションだと言われるのは目に見えていた。
 だから誰にも言わなかった。
 私の王子様が迎えに来る、その日まで。



     ●     ●     ●



 ある夜。
 私は夢を見た。
 目の前に男性が居る。
 でもその人は悲しそうな顔をして、決して涙を流すまいと堪えている。
 どうやら私は死のうとしているらしい。
「ユーリ……さん……」
「どうした、カレン」
 か細い声で、拙い言葉しか話せない。もう時間は無いのだろう。
「色々、ありましたよね。私たちが出会ってから」
「馬鹿、まだ早いぞ。俺達には、まだ」
 私は首を横に振る。
「いいえ、もう私に時間はありませんよ。分かってるはずです」
 彼は何も言わなかった。いや、何も言えなかったのだろう。
 だから私は努めて笑った。
「……私は……貴方と出会って……貴方の事が……好きになって……毎日がすごく……幸せでした」
「……ああ。俺も幸せだった」
「貴方が私に……世界を教えてくれたんです。一人じゃない……二人の世界を」
「だけど、まだまだだよ。俺はカレンに何もしてあげられていない」
「いいえ……十分もらいました。貴方からの……精一杯の愛情を……」
「だけど……。だけど、これで満足するなよ。俺達はまだ始まったばかりじゃないか!!たった一年半、それも俺が半年いなかったから実質一年だ。それだけしか、一緒に過ごせていないんだぞ!!俺は、後悔しかしてない……。それに、今日俺があんなのに巻き込まなかったらって考えたら……」
「そんな風に……言いますけど……あそこで私を連れていったのは……正しい判断だったと思いますよ。……私が……ユーリさんの立場だったとして……私も……同じ判断をしたと思います」
「……だとしても、俺はお前を巻き込むべきじゃなかったよ……」
 彼は目を閉じた。それは涙を堪えるため。
 彼の思いが伝わってくる。自分自身を責める、悔やむ思い。
 でも私はそう思ってほしくなかった。
 だから力の限り手を伸ばした。
「泣かないで……ください。貴方の……長い人生の中では……私との時間なんて……たった一年です。それを考えれば……どうでもいいことでしょう?」
「そんな事言わないでくれ。俺が生涯で愛した女はお前だけなんだから……」
 私は驚いた。そして微笑んだ。
「……そっか……ユーリさんの中で……唯一私は……愛されていたんだ……。嬉しいなぁ……」
「ああ……。だから、悲しいこと言うな。お前の事を、忘れるなんて、出来るはずないだろう」
 彼の涙は止まらない。それ程までに私を愛してくれていたのだろうか。
 だったら、もう一度。
「……でも……ユーリさん……また会えます。いつか……遠い未来で」
「かもしれないな。だが、会えるだろうか……?」
「会えます……きっと。私とユーリさんは……また出会って……私はまた……貴方に恋をするんだと思います」
「……だと、いいな」
 彼は深呼吸して、私の手を握った。
「……よし、決めた。俺は生きる。生きて、いつかお前にもう一度会う」
「……期待しないで待ってますよ」
 そして私の体を抱き寄せ、口づけをしてくれた。
「どこにいたって、見つけて見せるさ。……愛してる、いつまでも、ずっと……」
「はい。必ず迎えに来て下さいね……。私も、愛してます」
 その言葉を発した瞬間、大きな風が吹いた。そして背中の桜の木から桜吹雪が舞い、桜が散った。その散った花びらが全て地面に落ちた時。
 ――私の意識は途絶えた。



     ●     ●     ●



 とある日の夜中に起きた私は、珍しく寝汗をかいていた。
 恐らく見た夢のせいだろう
 なんてリアルな夢だろう。
 これまでにも色々な夢を見てきた。
 力を疎まれて孤児だった女の子。その才能を見込まれて、とある公爵家に引き取られたこと。地下にある魔法学校。そこで出会った人のこと。魔法学校で学生として学んだ日々。
 様々な夢を見てきたけど、ここまでリアルな夢は初めてだった。
 ――気になる。
 この記憶は誰の物なのか。どうして私がこの夢を見ているのか。
「……あれ」
 なんでこれが"記憶"だって思ったんだろう。
 私は少し疑問に思いつつも、流石に眠気には勝てず、再度眠りについた。



 何度も夢を見たが、あの時のようなリアルな夢を見ることは暫くなかった。
 それどころか、前から見ている夢を繰り返し見ている……気がする。
 その理由が分からず、もどかしい思いをしている。
 それに変な夢を見ているおかげで悩んでいるせいか、お父さんやお母さんに心配を掛けてしまっている。
「なんでもないよ」
 そうは言うものの、やっぱり親というものは鋭いらしく、私の不調を見破っていた。
 だから私はこのことを相談した。そうしたら笑われた。
「そんなの、ただの夢よ」
「気にすることはない。他に楽しいことを考えればいい」
 違う。
 絶対に違う。
 これは夢なんかじゃない。私にとって大切な記憶なんだ。
 その時私はハッとした。
 どうしてあの夢が"記憶"だって確信があるんだろう。お母さんたちの言う通り、これはただの夢なのかもしれないのに。
「どうしたの?」
 考え事をする私を見て、お母さんが私を心配そうに覗き込んでいる。
「なんでもないよ、やっぱり夢なのかも」
 お母さん達が信じてくれないなら、これは私一人で何とかするしかないのだろう。
 私は人生で初めて大きな覚悟をした。
 それは小学6年生に進級したての春の事だった。



     ●     ●     ●



 夢を見ている。
 真っ暗闇の中、目の前に私がいる。
 違う。
 私にそっくり、まったく同じ顔だけど違う。子供の私とは決定的に違う見た目。大人に近い私?
「そうだね」
 じゃあやっぱりこれは夢?
「違うよ。これは夢じゃない」
「だったら何?」
 声が出た。びっくりしてそわそわしてしまう。
「場所、変えようか」
 目の前の私が指を鳴らすと、真っ暗闇だったはずの場所が、一面緑の草原に変わった。
 辺りを見渡すと、大きな桜の木が生えている。
 そこに彼女は居た。
「貴女は誰?」
「私は貴女。貴方は私。だけど私は貴女じゃないし、貴女は私じゃない」
「言っている意味が分からないよ」
「そうだなぁ……」
 女性は少し考える仕草をする。凄く大人っぽい感じがした。
「貴女は私と同じ魂を持って生まれた存在。つまり私の生まれ変わり、って言えば分かる?」
「つまり貴女は私の前世?」
「そうそう」
 女性は笑顔で頷いた。
「貴女、お名前は?」
作品名:D.C.III.R.E 作家名:無未河 大智/TTjr