二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」
無未河 大智/TTjr
無未河 大智/TTjr
novelistID. 26082
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

D.C.III.R.E

INDEX|26ページ/36ページ|

次のページ前のページ
 

After da capo:With You 続く未来







 それは俺達夫婦が初音島に引っ越してきた日から数日後の事だった。
 早速エリザベスから非公式新聞部の仕事として魔導書の解読を頼まれ、俺はそれに勤しんでいた。
 その日の夕方。
「すみません、ユーリさんは居ますか?」
 聞き覚えのある声が聞こえたので、俺は玄関に向かった。
 案の定それは隣人の清隆だった。
「どうした?」
「家の事がそろそろ落ち着いた頃かなと思いまして。お願いしたいことがあって来ました」
「……まぁ、上がれ」
「はい」
 俺は清隆を客間に上げ、紅茶を持ってきて彼に差し出した。
「ありがとうございます」
「それで頼みって?」
「はい、これです。」
そう言って彼は一冊の本を差し出した。
「失礼」
 俺は受け取り、中身を見た。
 様々な言語の言葉が入り混じっている。
 しかも普通に読むと意味が通らない。無理矢理読もうとすると変な文になる。
 だが俺は最初の単語を読み取り、確信した。
「魔導書か。ひっくり返すとか、逆転とか反転とか。そういう意味の言葉が書かれている」
「読めるんですか!?」
 清隆が身を乗り出してきた。
「清隆、気持ちは分かるが落ち着け。書いてあることを掻い摘むあたり、姫乃の<鬼>の力をどうにかする為に探したんだな?」
「はい、おっしゃる通りです」
 清隆は元の位置に戻り、俺の目を見た。
「この島に戻ってきて色んな魔法使いと交流していて、その中でこの魔導書を入手しました。俺も自分なりに解読してみようとは思いましたが、結局内容を読み解くことは出来ませんでした」
「なるほど」
「なので、風見鶏にいた頃から魔導書の解読をされていたユーリさんに解読をお願いしたいんです」
 自分の義妹に関わる事を、俺に頼むのか。
 いやこれは俺への信頼の表れか。
 なら断る理由はないな。
「了解した。だが少し断っておく」
「なんでしょう?」
「俺は俺で今でもエリザベスに仕事として魔導書の解読を依頼されている。勿論姫乃に時間がないことは俺も重々承知しているが、仕事の方を優先させてもらう」
「それは理解しています」
「それと少し読んだ限り、解読には相当苦労すると思う。年単位で解読に時間を要すると考えて欲しい」
「そんなにですか?」
「考えたくなかったが、様々な言語にその言語とは違う言語の文法を使って内容を記されている可能性がある。それを読み取りながら解読する必要がある」
「それは俺が読めないわけですね」
「まあ、だから時間がかかると考えて欲しい」
「分かりました」
 俺は清隆から魔導書を預かり、清隆が自宅へ帰るのを見届け、自分の書斎へ戻った。



     ◆     ◆     ◆



 清隆から魔導書を預かって数年。
 俺はエリザベスからの依頼されている魔導書の解読を行う傍ら、清隆の魔導書の解読を進めていた。
「進捗どうですか?」
 そう声を掛けながら書斎の戸を開けて入ってきたのはカレンだった。
 手にはカップを二つ持っている。わざわざダージリンとアッサムティーを淹れる当たり彼女らしい。
 俺がダージリンを受け取ると、カレンはアッサムティーを俺の机に置いて窓の方へ歩いていった。
「相変わらず全然だな。ゴールは見えてきたが」
「何処で躓いてるの?」
「多分この魔法、<逆転の魔法>を使って解呪出来るものの条件とかの内容だと思う」
「なるほどね。と言うか<逆転の魔法>ねぇ」
 窓を開けながら、なにやら意味深にカレンが呟く。
 どうやら換気が目的だったらしい。
「それがあれば、ユーリさんの呪いも解くことが出来るのかもね」
「そうだといいな。本来は姫乃の為の物だが、もし可能なら俺もそれにあやかりたいところだ」
「流石に清隆君達もそんなケチな事は言わないでしょ」
 換気の為に窓を開けたカレンは、俺の隣に腰掛けて体を預けてきた。
 キリもいいところだ、少し休憩しよう。
「そうだね。調子良く進んでるからか、単に焦って根を詰めてるだけかは分かんないけど、ちょっと休むのも大事だよ」
 相変わらず心を読んでくる奴だ。
 まぁ、カレンなら良い。不安にさせるよりはな。
「ところでユーリさん」
「なんだ?」
「この前から清隆君とリッカさんが順繰りに来てたけど、何話してたの?」
「清隆とは今の進捗を、リッカとは昔話をしていた」
「昔話?」
「皐月がこっちの世界に来た時の話」
「風見鶏にいた時のやつか。でもなんでリッカさん泣いてたの?」
「……見たのか?」
「リッカさんが泣いてるとこだけね。で、どうして?」
 詰め寄り、更に体重を掛けてくる。どうやら逃がしてくれる気は無いらしい。
 正直に話すか。
「あの時の事、今になって突っ込まれたよ。俺が境界の世界に残ってでも皐月を助けるつもりだったんじゃなかったのかって」
「確かに。あの時は私も含めて三人掛かりでやっと扉を開いてユーリさんを助けられたわけだもんね」
「そうだったな」
「そして貴方はこう言った。『Noblesse oblige、高貴なる者には背負うべき責務がある』って。そう言ってはぐらかした」
「よく憶えている」
「そりゃそうだよ。あんなにキレてたリッカさん、初めて見たもん。少なくとも私よりキレてたかもね。それで?」
「それに関して釈明しておいた。俺にはやるべき事がある。魔法使い達の行く末を見守ると言う責務があると」
「ずっと生きるつもりなの?」
「そうは思わない。俺は無意味に生きたくないだけだ。今は呪いで生かされているが、これがなくなったら普通に老いて死にたい」
「そう言ってくれて安心したよ。私も同じ」
 カレンが俺の腕を取り、抱き締めてくる。
 不安だったのだろうか。無理もないか。
 先日あんなことがあったんだから。



     ●     ●     ●



 それは突然の事だった。
「ユーリさん、一度病院を受診されては?」
「なんだいきなり」
 引っ越してきた当初から付き合いのある俺達夫婦と芳野夫婦とは、当然のようにお茶をするようになっていた。近況報告や、思い出話を含めた他愛のない雑談をするなどしている。
 その席で突然清隆に言われたのだった。
「そうだよ清隆君。いくらユーリさんが鈍感で思いやりのしかたがヘタクソでニブチンだからって」
「お前も酷いこと言うんじゃねぇ。そもそも同じこと二回言ってるし」
「あれ?」
「はいはい。それで清隆、ユーリに病院を勧めるだなんてどういう魂胆よ」
「気になったことがあるんだよ。ユーリさん達夫婦に子供が出来ない事が」
「余計なお世話だ」
「でも私はユーリさんとの子供欲しいよ?」
「分かってる。でも急いたって仕方ないだろ」
「でも妙よね。貴方達、夫婦なんだからしっかりそう言うことはしてるんでしょ?」
「そりゃ、勿論」
 あまり大っぴらにすることではないが。
「結構頑張ってるよね」
「そう言うこと言わんで宜しい」
「だったらおかしいじゃないの。私達ですらしっかり二人も出来てるんだもの。貴方達がこっちに移り住んで数年経つのに、一人も出来ないなんて」
 リッカの言うことも一理ある。
 しかし、それで病院か。
「いいじゃない、ユーリさん。異常がなければそれでいいんだし」
「それもそうか」
作品名:D.C.III.R.E 作家名:無未河 大智/TTjr