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無未河 大智/TTjr
無未河 大智/TTjr
novelistID. 26082
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D.C.III.R.E

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After da capo:Holding Hands 何処へでも、あなたとなら







 風見鶏を卒業して十数年が経った。
 俺は相変わらずエリザベスの秘書兼使いっ走りをしていた。
「ユーリさん、お仕事です」
「なんです?」
「読書です」
「それ、本当に仕事か?」
「資料を読めば分かりますよ」
 渋々渡された資料を読む。
「魔導書の解読じゃねぇか、最初からそう言え」
「公務中ですよ」
「おっと、そうでした」
 俺は咳払いしてもう一度資料を見た。
「どこで見つけてきたんです?こんな本」
「日本のとある島にあったとのことですよ。非公式新聞部で回収してきたんです」
「それ、大丈夫か?」
「問題ありません。その島には魔法使いは居ませんから」
「そう言う問題か?」
 まぁ、エリザベスがそう言うのなら大丈夫なんだろう。
「それにその島から大きな魔法的痕跡が見つかったんです」
「眉唾物だな」
「貴方にも無関係ではないと思いますよ」
「何故?」
「十年程前貴方の身に降りかかった事、忘れたとは言わせませんよ」
「……思い出さないようにしているだけだ」
 あれは思い出すだけで肌がチクチクと痛む。



     ◆     ◆     ◆



 それは突然起こった。
 周囲のマナが震え、嫌な空気をピリピリと感じる。
 普通の魔法使いはその程度だった、と聞いている。
 しかし俺は違った。
 ――ドクン。
 不意に心臓が早鐘を打ち、俺の体内の魔力が震える。周囲のマナが震えるのに合わせて共鳴し、意識が遠退きそうだった。
「グッ……うぅ……」
 俺はその場に倒れ、のたうち回っていた……らしい。
 自分の状況を客観視出来ない程苦しかった。
「大丈夫、ユーリさん!」
 俺はその時風見鶏でカレンと共に仕事をしていた。なんでも、講師として赴任したばかりで不安だから暫く付き添って欲しい、とのことだった。エリザベスはそれを二つ返事で了承し、俺をカレンの補佐に着かせた。
 俺の意思はどこへ行った、とその時は考えたが、今となっては感謝している。もし一人での任務中だったらと思うとゾッとする。
 閑話休題。
 その日は夜遅くまで残って仕事をしていた。カレンの仕事が終わらず、手伝う羽目になってしまっていた。
 そんな時だった。
 俺は血液が沸騰するような感覚を味わった。
 違う。
 魔力が暴れている。俺の中の魔力がどこかへ向かおうと、俺と言う存在を食い破って外へ出ようとしていた。
「ユーリさん!ユーリさん!」
 必死で俺を呼ぶカレン。
 だが俺はそれに答えることが出来ない。声にならない声だけを出すことしか出来ない。
 その時だった。
 ――フッと、俺の魔力が落ち着くのが感覚的に分かった。
「ユーリさん!」
「ああ、大丈夫だ……」
「大丈夫じゃないでしょ!今、凄く苦しそうだったんだもん!」
「……そうだな」
 カレンが目を濡らして俺を抱き締める。
「大丈夫ですか、ユーリさん」
「……エリー……?」
「学園長!?」
「その様子だと、間一髪と言ったところですか」
「お前が俺の魔力を静めてくれたのか?」
「ええ。大きな魔力が渦巻いているのが判り、感じるままにここへ来ましたが、まさか貴方とは。一体何があったのですか?」
「……わからん。が、助か……った」
 俺の意識はそこで途絶えた。



 後から聞いた話だ。
 結局異変の原因は掴めなかったらしい。
 ただ少なくともロンドンに居た魔法使いは、肌がピリピリと痛むような感覚を味わった、とのことだ。
 それは十年経った今でも謎のままだ。



     ◆     ◆     ◆



「で、それとこれがなんの関係があるんです?」
「わかりません。だから貴方にその解読をお願いしたいのです」
「そういうことか」
 なら動くのは早い方が良さそうだ。
「それでは暫くはそちらに専念してください。学園の運営の方は落ち着いていますから」
「……今度客が来るとか言ってませんでしたか?」
 そんなことをリッカが言ってた気がする。
「そちらはシャルルさんが対応する予定なので問題ありません」
「あいつ今となってはOGだろ。風見鶏の運営に関わってるわけでもないし」
「他に頼れる方はいませんから」
 ……そうだった。
 リッカは清隆について日本に行ったし、巴も清隆もそれぞれの故郷に帰っている。他のエリザベスの事を知る元生徒会メンバーは、何かしらの形で魔法使いとして活躍してる。そう言う意味でもシャルルが適任か。
「それに魔導書の解読も優先です。何せまだ貴方しかまともに読める人がいないのですから」
「まあ、貴女がそう言うなら。と言うか、それどうにかなりません?」
「後任の育成は進んでいますが、如何せん貴方の知識が豊富で解読が正確すぎるのです。貴方の後任となると、かなり凄い人になりますよ」
「……そう」
 俺は渡された魔導書に目を落とす。
 古ぼけたその本からは、大きな力を感じた。



     ◆     ◆     ◆



 数日後。
 自宅。
「そう言えばユーリさん、最近風見鶏に来ないね」
「まあな」
 目の前に座るカレンとの夕食中に聞かれた。
 当のカレンはと言うと、変わらず風見鶏で教員をしていた。曰く、魔法使いの卵達を育てるのに興味があった、だそうだ。……それに加えて図書館島の書庫も気になるのだろうけど。
 ともかく、卒業してから暫くは講師をしていたものの、今は正式に教員として働いている。
「で、なんでよ」
「エリザベスに仕事を押し付けられてる。魔導書の解読だ」
「若い宮廷魔術師、いないの?」
「いる。が、俺の知識と解読したものが正確すぎてまだ後任を付けられないんだと」
「あー……」
「そう言うそっちはどうなんだよ。客が来てるって話じゃないか」
「うん、凄い子だよ。なんでも、時遡の魔法?を使えるんだって」
「……なるほど」
「なんか知ってるんだ」
「噂程度だ。昔向こう側の世界を旅してた頃があったんだが。その極東の国に時遡の魔法を扱える魔法使いの家系があってな。その話を聞いたことがあった程度だ」
「会わなかったんだ?」
「その魔法使いが住んでいる土地は離れ小島でな。俺が旅してた頃は往来が大変で、断念した」
「そう言うこと」
「本土に住んでいた分家の人間に会って、話は出来たけどな。いつか会ってみたいとは思う」
「会いに来ればいいじゃん」
「遠慮しとく。女王様の小間使いは忙しいからな」
 しかし向こう側の世界か。
 噂程度に聞くことだが、その時遡の魔法使いの分家の子孫にはのいいアクセサリー職人がいるとのこと。一度行ってみたいものだ。
「そのアクセサリー職人のところ、私も連れてってよ」
「……心臓に悪いから突然心を読むな」
「慣れてよぉ」
「未だにドキッとするんだよ」
「あっ、私でドキドキしてくれるんだ」
「当たり前だろ。愛してる女と一緒に住んでたら」
「……ほう」
 カレンは赤面して俯いた。
 ふむ、面白い反応をするじゃないか。
「……ばーか」
 顔を上げて一言。いい笑顔だった。
「開口一番それか」
「ふふふ。ありがと、私も愛してる」
「……おう」
 やっぱり正面から言われると照れ臭い。何年こんな関係を続けても慣れそうにない。
「やっぱ、ずっと一緒にいることが出来ると、幸せだね」
作品名:D.C.III.R.E 作家名:無未河 大智/TTjr