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人生の織物

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ときめくこと その1



最近特に、長いこと生きてきたもんだという感慨がある。ときめくことは皆無で、胸の奥にいつもどんよりしたものが溜まっている。孫が順調に進学できなかったこともあろうが、それより多分、自分の健康寿命が限られていることに気がついたからだ。

周りの人も、メールをやり取りしている人もみな、何故か、自分の寿命を決めている。死ぬ死ぬと言っていた老女は今、90までは生きたいと言い出した。
彼女は70歳になる前から三年後の年齢まで、と言い、その年齢が来ると亦三年後まで、と言い続けて、もう何回死んだことだろう。80を越えた今は死ぬことなどさらさら考えていないだろう。

人は、余裕のあるときは返って不遜なことを口走るもんだ。いざそれが迫っていることを感じると目を背け、死ぬ死ぬと言っていたことなど忘れて、生きていたいと必死で努力する。

私はいつも頭の中が空っぽであることを自負していたが、それは心配事が何も無くて、むしろ穏やかな気分のときに空っぽになれるという気がする。自分の身に不安が生じると空っぽではいられなくなる。何かに寄りかからないと風船のように飛んでしまいそうだから重石が必要なのだ。それは決意するというしっかりとした重石だ。

そもそも、ときめきなんて、ありえないのだ。架空の城を作り上げ、その中でありもしないイメージを作り、それをときめきだと錯覚しているに過ぎない。

作品名:人生の織物 作家名:笹峰霧子