ペットショップ
「パパこれかわいい! このわんわんがいい!」
幼い娘が指さしたのは、一頭のトイプードルの子供であった。
「……どれどれ……おいおい」
パパは値札を見てビビった。ママは、紛うかた無き四十九万八千円の数字を見て笑った。
「これは、パパがもっと頑張らないとだめね」
「やめてくれ~」
パパは苦笑いしながら、他のケージを見回した。
「みいたん、こっちのほうが可愛いぞ~! これどうかなこれ」
パパは柴犬の子供を見つけて、きっと安いのではないかと考えて前まで行った。値札は、案の定、先ほどの半額以下。
そして客観的に見て、ちゃんと十分に可愛らしい。
「可愛いだろ~? こっちのわんわんのほうがよくない?」
幼い娘もトコトコとやってきて、柴犬の子供を見て言った。
「でも、ゆいちゃんちといっしょだよ」
「ん? いっしょでもいいよね?」
「え~……みいたんあっちがいい」
パパは、これは面倒くさいことになりそうだ、最悪泣かれる……と思いながら、説得にかかった。
「みいたんはゆいちゃんと仲良しでしょ? ふたりでおんなじわんわんの話をするといいと思うよ」
そしてママに助けを求めた。
「ママもそう思うよね?」
「そうね~……」
そうして柴犬のケージのあたりで、この若い夫婦と彼らの幼い娘は小ミーティングに突入した。
と、当たり前と言えば当たり前だが、一角に別のお客が来た。そしてその頭の禿げ上がった年配の男性は店員を呼ぶと、あっという間にトイプードルを買ってしまった。
パパは呆気に取られつつ、これはしめたと思ったが、果たして幼い娘はグズり始めた。
パパとママは、特に下調べも計画も無くお店に行ったのを反省しつつ、その日は何も買わずに帰ることに決めた。
帰路、車の中。ママが言った。
「さっきの人、トイプードル自分で飼うのかな~」
パパはハンドルを握りながら答えた。
「ん~、どうなんだろ」
ママは、「ペットは飼い主に似る」という言葉を思い出しながら言った。
「あのトイプードル、将来頭がつるつるになるね」
パパは察して笑った。
「そうかも」
すると、幼い娘は驚いて言った。
「そうなの? じゃあ買わなくてよかったね」
(了)