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地獄のダンス

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閻魔大王は嫌われていた。
 人間たちからも敬遠されていたが、表情の常態的な険しさと性格の悪さのために、上司として、部下たちから普通に嫌われていた。
 このような上下関係だったが、その日部下たちは、一つのお願いを閻魔大王に申し出た。
「この、脳足りんどもがっ!」
 閻魔大王は立ち上がり、獄卒たちを見下ろしながら罵倒した。
「な~んでワシが、ダンスなんてしないといけないんだっ! ぶち殺すぞっ!」
 獄卒たちはうろえながらも、今回ばかりは切実さに後押しされて食い下がった。
「……し、しかし……地獄は不人気なんです」
「恐れられてナンボだろうがっ!」
「ま、まじめな人間が増えてしまいまして、仲間が失業する一方なんです」
「講師ヅラなどされずとも知っておるわ!」
「……我々も、家族がありますので……」
「……」
「……」
 閻魔大王は腰を下ろし、そのドッシリとした巨体で椅子をきしませた。
「……それにしたって、何でダンスなんだ? 他にも方法があるだろうが」
「ダンスは、みんなの体も心も揺さぶります」
「そんなことワシは一度たりとも思ったこと無いが」
「……組織の地位が高い者が踊る動画が人間界で流行っていて、これが人気があるんです。顧客も就職希望者も増えるのだそうです」
「くだらん」
「閻魔大王が踊って下されば、地獄の人気も上がります」
「……」
 閻魔大王は獄卒たちを見回してため息をつき、そして忌々しそうに言った。
「……一回だけだからな」

 果たして、この動画は見事にバズった。
 再生回数はたちまち一億回を突破した。
 閻魔大王は恥ずかしかって脇に二名の獄卒を置いて三名で踊ったのだったが、コメント欄のほぼ全てが閻魔大王のことで占められ、「閻魔大王可愛い!」「EMMA DAIOH AWESOME!(閻魔大王イケてる!)」などの賛辞が大量に続いた。
「ぎゃははは! ワシ大人気じゃん!」
 閻魔大王も、これに大いに気をよくした。
「おい、もっと撮影するぞ!」
 そうして第二弾、第三弾も作成され、これもまた大ヒットした。
「閻魔様は変わられた。表情も性格も明るくなった」
 獄卒たちが嬉しそうにささやき合う中、ついにテレビ局が取材に来ることが決まった。

 そしてその日。
 テレビカメラに撮影されながら、閻魔大王とお供の二人が踊り狂う。
 汗をかいた閻魔大王にインタビュアーがマイクを向けると、閻魔大王がにこやかに答えていく。
 見守る獄卒たちも、やはりにこやかにささやき合う。
「とても信じられない。ダンスが閻魔様を本当に変えた」
 インタビューは続き、質問が投げかけられた。
「どうしてこれをしようと思われたのでしょうか?」
 閻魔大王はまっすぐな目で答えた。
「ワシには、少年時代から一貫して持ち続けてきた想いがあります」
「と申しますと?」
 閻魔大王は微笑んで続けた。
「それは、ダンスはみんなの体も心も揺さぶるということです」

(了)
作品名:地獄のダンス 作家名:Dewdrop