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愛情

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その5


彼女はとても恵まれた環境で育ったということが、親しくなって話す内に判った。父親や兄弟姉妹のいない私の育った環境とは大きな違いがあることをずっと羨ましく思っていた。

しっかりした父親とそれに寄り添う母親、三人姉妹と弟、実家は町中で商売をしていたようだ。20歳そこそこで温厚な男性と結婚し、年をとった現在も夫と仲睦まじく暮らしている。彼女と旦那様の人となりから察すると、夫婦喧嘩などしたことが無いのだろうと思う。

彼女の口から愚痴を聴いたことはなく、ひと様の噂話などの話題は一切出てこない。子供がいないのに、私の娘や孫のことを気遣ってくれる。彼女の家に立ち寄ると、ソファでゆったり寛げて、旦那様がコーヒーを入れてくださる。いつまでも去り難い気分になるが、お暇して帰る道すがら幸せな気分になっているのをいつも感じていた。

彼女の高校生時代からのグループにはとても頭の良い人もいるが、その人らも彼女の人柄と暖かい雰囲気に惹かれているようで、彼女が中心人物になっている。
強い絆の友人との繋がりがあっても、私が電話を掛けるととても温かい対応をしてくれる。今は私も少しは彼女の心に友達としての場があるのかしらという気にさせてくれるのだ。

高校時代の同級生が何人か集まって会食をしていた頃があったが、今の彼女は目が見えないので迷惑をかけるからと参加しなくなり、皆が集まることもなくなってしまった。

夕食を作るのも旦那様と台所に立って充分な食事作りができているようだ。電話で話すとき彼女が目が見えないことを忘れて話すが、彼女自ら、眼が見えないからと時々言うけれど、私はそれにはあまり反応しないことにしている。
いつまでも元気でしっかりと生きて欲しいと思える友達である。

 

  完



作品名:愛情 作家名:笹峰霧子