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愛情

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その6


娘から孫の日常生活を気遣うメールが朝に夕に送られてきていた春から夏にかけて、私はもっぱら、子供といえどもう18歳の人間に対する他者としての尊重を説く返信を繰り返していた。

娘がまだ自分の描くレールの上を行って欲しいというきもちは次第に変わって行った。そのことが孫の精神にどのぐらい影響を与えているかは、具体的に見えない限り理解できなかったかもしれないが、娘本人も葛藤の中で次第に変化していたと思う。

夏休みが来ても勉強をしない孫を離れた距離で見守り、自分は仕事をすることで焦りを抑えていた。学校との距離が短くなれば朝起きが一時間遅れても通学するのが楽になるだろうと、学校に極近いアパートを借りて過ごしたことが無駄になったと嘆く文字が並んだメールが続いた。
なんで今の今になって、どうしてどうして、という娘の悔しさを私は手に取るように感じることができた。

私はといえば、句会に参加する意欲は次第に薄れ、退会しようかなと別の所で悩んでいた。それというのも、今までかなり親しくなっていた会員の態度が急に変わったことと、自分がその会にいても伝統的な句会には沿わない自分の詠む句が歯痒いと感じていたからだ。

この先この会にいても所詮句歴の長い方たちの下で認められもせぬまま在籍していくのかと思うと何の希望も持てなかった。子供の頃にピアノのレッスンを受けていたころは次第に巧くなっていくスキルに愉しみがあったが、高年になって始める趣味は進歩の余地はなく、僭越ながらもこの先、先輩方の老醜にただひたすら黙々と交わって過ごさねばならないのかという気持ちは否めなかった。

そのような自分自身の気持ちは娘には伝えることはなく、時たま一人で海や里山へ出かけて写真を撮り、ブログにアップする句を考えながら散策した。

夏が終わり残暑がきびしい九月、高校の二学期が始まった。孫は一向に動こうとはしないようで、娘と私は自分のことに目を向けるよう努力しながら過ごしていた。
九月の半ばだったろうか、娘から思いがけないメールが来た。


作品名:愛情 作家名:笹峰霧子