モコモコ包み込んで
教室に入るや否や、教壇に威厳を振りかざして立っている奴に言われた。
私は自分の席に向かう。
おい聞いてんのか。学校には何しに来てんだ。
私は席に着き鞄を下ろす。
学ぶために来てるんだろ。何不貞腐れてるんだ。俺はお前のために————
後半は聞き取れなかった。それは奴が黙ったのではなく私が机に顔を臥したからだ。
うざい
一限目が終わり十分の休憩に入る。先程講釈垂れていた人は早々と教室から出ていった。
私は教室のある一点に目を向ける。そこにはクラスメイトの亜くんを中心に三、四人が、廊下まで聞こえるような声で話している。亜くんはあのグループの中心的存在でありこの教室の中心も兼任している。
彼が嫌いだ
話は面白いし、先生という大人と話せる器量を持っているし、容姿もかっこいい。何より優しいのだ。
ただただ嫌いである
まるで私をコケにするためだけに生まれてきたような存在だ。彼はその生まれながら持ったカードを胡座かいて出しているだけに過ぎない。なのにあの勘違いぶりよう。まるで自身の努力と個性と言わんばかりの態度である。もう視界に入れるのはやめよう。
二限の始まりのチャイムが鳴る。
昼休み。
私はいつものメンバーと共にお弁当を開ける。会話の内容はいつも同じ。飽き飽きしないのかこいつらは。
てゆうか、朝ヤバかったくね
私にわざわざ話しかけてきたのは弁当メンバーのリーダーとか勝手に思ってそうな宇ちゃんである。
何が
めっちゃ先生にキレてたじゃん!めっちゃ睨まれてたで!
なぜいつも新しい話題は面倒くさい内容なのだ。反応するのが鬱陶しい
あぁ……
え?何、まだキレてるん?もうストレスは美容に悪いで!
周りは採掘場でやっと金を掘り当てたかの如く、ここぞとばかりに笑う。何が面白いのか。会話レベルの低さが露見している。その理不尽は無視するのが一番みたいな、大人みたいな、私は気が大きい人間みたいな説教が一番うざい。人をコケにして何が面白いのか。そんでこいつは次に「え?ネタやんか!」とか言うつもりだろうかエセ関西弁が腹立つ。私は採掘場で見つけたストレスを理由にそっぽを向いといた。
てゆうかさぁ聞いてよ。
宇ちゃんはメンバーの中心を向き、誰にも言っていないような視線で、少し小さめな声でファシリテイターとしてのテーマ出しをする。
私昨日塾帰りにさ、亜くんとさ一緒に帰ることになったんだよね。あ、亜くんとはおんなじ塾だからなんだけどぉ
あー。面倒臭い予感がものすごくする。
彼女はその誰も奪いたくもないような艶やかな唇の周りを、まるで彼女の心と同じくらいの大きさの舌で少し濡らすと
…………告白されちゃってぇ
とほざきやがった。
注目、もとより宇ちゃんに付き合う人間は私含めて数人だが、は一気に宇ちゃんにむいた。その耳をつんざくような悲鳴に近い歓声に彼女は心が踊ったらしく続ける。
……そんでさぁ。その後ちょっと雰囲気良くなっちゃってさぁ。……勢いでキスしちゃったんだよね!
馬鹿馬鹿しい気持ち悪い。これ以上こいつに関して特筆するのは気が引ける。
中略
五限終わり、私がトイレに行ったために、英語の先生と廊下で会う羽目になった。こいつはよく私に話しかけてきやがる。そう言うのが趣味なのだろう。世代が違くても付いていける。年下の女の子を惚れさせる。見え見えである。
お前、朝遅刻して怒られたんだってな!程々にしろよぉ。
中略
チャイムが校内を響き渡る。学校の終わりの知らせである。とは言うが部活はこれから始まるし、それに当たっていたりその他業務が残る先生は残るわけで、どころかスポーツをしに学校にきやがる奴らはこれから、可哀想に、学校が始まるのだ。馬鹿なんじゃないの
帰宅
あら早かったわね
家に帰るなり、玄関から見える居間にいるらしい母が言う。
部活は
………
今日部活はって
無いから帰ってきたんでしょ
何むすっとしてんのよ。あんた学校でもそんな態度してないでしょうね
………
学校楽しかった?今が一番楽しい時期なんだか————
うるさいなぁ!ほっといてよ!
私はわざと大きな足音を出して二階にある自室へ向かった。
ドア開いてすぐ右にあるベッド。私の味方は悲しいかなこいつしかいない。私はモコモコなそいつに身をまかした。
呼吸が苦しいながらもうつ向けになった私はその布団のカビ臭さと埃っぽさを感じる。と同時に空気でふかふかだった掛け布団は徐々に沈んでいき床板の表面の形も分かってきた。
明日が来なけりゃいいのに