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オモテウラ

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彼女は高校三年生。通っているのは進学校。つまり、大学に行くために受験勉強を続ける日々にある。
 彼女の家は、両親も一番上の兄も難関国立大学出身、二番目の兄も難関国立大学に在籍。おかげで彼女も難関国立大学に行って当然のような雰囲気が自然にでき上がり、容姿に恵まれたほうだと自他ともに認めるところなのに、灰色の高校生活を送ってしまっていた。
 ところで、彼女には気になる存在、「N木さん」という女生徒がいた。
 気になると言っても、昨今言われるLGBT的な意味でない。
 N木さんは、彼女と同じグループではなかった。彼女より派手な、スポーツも恋愛も楽しんできたらしいN木さん。彼女より成績は悪かった。なのに、既に某難関私立大に合格を決めて注目されていた。それで、N木さんを思って、彼女はもやもやとせざるを得なくなったのだった。
 N木さんについて更に言えば、父親が結構大きな会社の経営者だった。そのために、「裏口を開けて入ったんだよ」などともささやかれ、さほど表裏の無い彼女も、冗談とやっかみのない交ぜになった気持ちでその陰口に付き合うこともあった。
 とにかく、彼女は報われたかった。第一志望に合格して報われたかった。

 年の瀬の、とある日曜日。彼女は、美容院の帰りに、寄り道をしようとしていた。
 本番が日々迫り、緊張感が日々高まる。そんな中の気分転換が目的のひとつだったが、正確には他にもあった。
 N木さんについて、こういう噂も耳に入ってきていた。「N木さんは、M駅裏手の神社にお参りに行き、賽銭箱に三十万円を入れて祈ったところ効果てきめんだった、と言ってる」という内容である。
 そしてその、ただの噂にしてはやけに具体的に特定された神社は、美容院と彼女の自宅の間の、寄り道できる圏内にあった。
 彼女はそこに、興味本位で行ってみたかった。また、もしかすれば、いやしなくても、あやかりたい弱さや非合理性は彼女にも人並みにあった。いや、裏口なんて思いも寄らない。正面突破を勢い付けるパワーをもらえれば、それがありがたかったのだ。
 ともあれ、彼女はそこに着いた。急行も止まらない小さなM駅の裏手にある、寂れた稲荷神社。お祭りか何かの時にはにぎやかになるのだろうけれど、少なくともその時には「寂れた」という印象を彼女は受けた。
 一対の狐の像が、両脇を護っている。
「何だか騙してきそうな顔……いや偏見かな~?」
 彼女は物珍しげに眺めて進む。
「……どこかN木さんと似た顔だな」
 そんなことを思いながら進んで、賽銭箱前に着いた。
「N木さん、本当にここに三十万円も入れたのかな」
 彼女は財布を開きながら考えた。
「入(い)れるわけ無いか!? 来たかどうかも、表口も裏口も分かんない! はっきりしてるのは、N木さんが難関大に受かったことだけ。しっかりしろ~自力本願だぞ私」
 ……ただ、せっかくそこまで来たので、彼女は手持ちの小銭のうち五十円硬貨未満の端数計二十八円を賽銭箱に投げて納めた。
 そして少し照れくさがりながら一応両手を合わせ、第一志望の合格を願った。「自分は真面目なので、普通に表口でお願いします」とも付け加えた。
 二十八円しか投げ入れなかったが、ついでなので、既に可愛いけれどもっと可愛くなれるようにとも願った。ついでなので、家族と友達の健康と景気回復と世界平和も願った。

           *           *

 第一志望校の合否が、ウェブサイトで発表された。
 彼女は自室で沈んでいた。
(手ごたえは悪くなかったのにな~。これは浪人かどうか……)
 そしてふと、N木さんのことを思い出した。
(……お参りにも、何の意味も無かったな)
 すると不思議な力によって、突然おならが出た。

(了)
作品名:オモテウラ 作家名:Dewdrop