abandoned
しかしどこにも合格せず浪人し、来年こそは大学に行くと言った。
しかし、たばこ、酒、ゲーム等等自堕落な生活に浸って、翌年も合格せず。
それを二度繰り返した後フリーターになったが、今度はミュージシャンになると言って楽器を買った。
しかし、たばこ、酒、ゲーム等等自堕落な生活に浸って、ろくすっぽ練習せず。
そのうちに、今度は投資家になると言って、証券会社に口座を開いた。
そして言うまでも無く、これも、早々と同じ道筋に入っていった。
アルバイト先で幸運にも作ることができた彼女も、愛想を尽かして去っていった。
(何かの才能があるに決まってるのになあ)
彼には、彼自身のことが本当に不思議だった。
特に努力も準備もせず、何かができると信じていた。
それこそが才能だと思っていたし、それでこそかっこいいと思っていた。
才能で何かを悠々と征服して、自分をみんなに認めさせられるはずだった。
……そして彼は、彼の新たなひらめきを友人に披露した。
* *
遭難者の荷物と衣類――どちらも、登山を解っているとは思われない――が見つかり、そのそばに人体の一部も見つかった。
その他は禽獣にその場で食べられたのか、持ち去られてから食べられたのか、あるいは……とにかく、警察が探しても見つけることはできなかった。
結局、その遭難者の青年について見つけられたのは、口だけだった。
(了)