7つの証言 ~掌編集・今月のイラスト~
その頃は本当に助かったと思ったし、素晴らしい団体だなと思って活動のお手伝いをするようになって2年くらいしたら、なんか変だなって思い始めたんです。
最初、DVでうつ病になったと申告するように言われて、おかげで生活保護を受けられたんですけど、入金されたお金は団体の管理にされたんですよね……ええ、お手伝いは完全にボランティア扱いで、私の生活費は生保だけ。
それと2DKのアパートを2人でシェアしてたんですけど、アパートは団体が借り上げててあたしたちからは家賃5万円だったんです、でも不動産屋さんのウインドウに貼られているチラシを見ると、もっと新しいアパートでも相場は7~8万円だったんですよね、2人から5万円だと2~3万円は団体の利益になるわけじゃないですか。
もちろん人件費や経費が必要なのはわかるんですけど、私みたいに無給でお手伝いしてる人も多かったですし、公的援助や企業からの援助の大まかな額を知ると、数学どころか算数ですら苦手な私でもなんか計算合わないな……って。
確かに自分ひとりじゃ生活保護は受けられなかったと思うし、5万円じゃ部屋は借りられないんで助かってた部分はあるんですけど、非営利団体って言ってるのになんか変だなって。
それとデモや集会に参加するようにも言われました、建前では自主参加なんですけど、行かないと後で怒られるし……。
そんな素朴な疑問を美羽さんに話したら、その時は『恩知らず』って言われましたよ、でも美羽さんも何か考え込んでるような様子だったんですよね。
その時のことが関係してたのかどうか知りませんけど、1年くらいしたら美羽さんも団体から離れたって聞いてます。
<祖母・Fさんの証言>
「美羽のことね、ええ、ダンナの会社で働いてますよ。 まあ、小さな土建屋ですんでね、身内ってこともあって大したお給料は渡せてないですけどね。
大学生の頃からフェミニストって言うの? 女の地位や権利ってことをやいのやいの言ってたね、あたしゃ男と女じゃ役割が違うのはあたりまえだって思ってるけどね。
そりゃお給料やなんかで差をつけられるのはおかしいとは思うけどね、あたしにゃ土建屋の職人はできゃしないよ、力仕事だからやりたいとも思わないしさ、あたしの仕事は経理だね、それと従業員のみんなが気持ちよく働けるように事務所を掃除したり、現場から帰ってきたらお茶を出してあげたりね、女がそういうことをすることに目くじら立てるってのはなんか違うと思うね。
ま、職人たちはあたしみたいなばあちゃんじゃなくて若い娘からお茶もらった方が嬉しいよね、あははは。
美羽は女性支援団体とかで働いてるって聞いたんだけどね、なんか知らないけど悩むところがあって辞めてきたんだよ、で、家でぼーっとしてるって言うからさ、遊んでるんならウチを手伝っとくれって言ったんだ、あたしもそろそろ楽したかったしさ。
理屈っぽい子だったからダメ元でそう言ったんだけど、2~3日経ったら向こうから『働かせて』って来たんだよ、もちろんこっちは大助かりさ。
職人たちもいい加減歳行ってるのばっかりだからさ、フェミニズムだのジェンダーフリーだのって言われても『そりゃなんのこっちゃ?』だよ、あたしだって美羽がそういう話ばっかりするから知ってただけでね、だからひょっとすると合わないかなとも思ったんだけどさ、案ずるより産むが易しだったね。
職人は事務所に戻れば若い娘がいるのを喜んでてさ、あけすけな冗談言ったりするんだよ、美羽はおっぱい大きいから格好のネタだよね。
でも美羽は怒らなかったよ、『立派でしょ? 触ってみたいですかぁ?』なんてね。
まあ、ホントに触っちゃうのはいなかったけどね、目の保養にはなってたみたいだね。
仕事もすぐに覚えてくれたよ、まあ、夜間高校卒のあたしでもできる程度の帳簿付けだからさ、大学出てる美羽には簡単だったんだろうね。
あたしはお嫁に行くまでの腰掛で良いって思ってるんだ、ダンナが足腰立たなくなったらこの会社もたたむつもりだしね。
だけどね、美羽は嫁に行く気はないって言うんだよ。
その辺りはフェミとかジェンダーの影響がまだ残ってるのかねぇ……。
だからからかねぇ、ウチの給料だけじゃ貯金まではできないって言って、夜のアルバイトも始めたんだよ、バニーガールっての? 水着みたいな服着て頭にウサギの耳くっつけてね。
いきなり髪の毛がピンクになった時は腰ぬかしそうになったよ。
危なくないのかい? って聞いたことあるんだけどさ、お触りとかは全然なしで、若い娘がそういう格好してお給仕するのを見て楽しむだけのお店だから大丈夫、せっかく立派なおっぱいくっつけてるんだから有効に使わなきゃ、だってさ……。
<バニーガールクラブの同僚・G代さんの証言>
「美羽? ここで働き始めたのはあたしの方がちょっとだけ早かったけど、同い年だし仲良くしてる。
明るくて積極的な娘だよ、初出勤の時から髪をピンクに染めてたんでびっくりしちゃった。
だってかなりセクシーな衣装で接客するでしょう? 時給がいいからやってみたけどやっぱり恥ずかしいとか言って2~3日で辞めちゃう娘もいるのにね、ずいぶん思い切ったことするなぁって思った、なんかお祖父ちゃんの土建会社で事務してるって言うからピンクの髪でも問題ないのかも知れないけどさ、あたしは昼間普通のOLだから未だに黒髪。
ウチの店はお客さんの隣に座ったりすることないし、お触りはNGってなってるけど、やっぱりサワッとお尻触られたりくらいはあるんだよね、テーブルにグラスを並べたりする時胸元をガン見されるのは普通だしね。
美羽は胸大きいからやっぱり『大きいねぇ』くらいは言われるみたい、でもそんな時でも美羽はニコニコしてるよ、恥ずかしくないことはないけどそう言われて悪い気もしないって。
ナイスバディに童顔だからお客さんには人気あるよ、美羽目当てで通ってくる人もいるんじゃないかな、指名とかないからわかんないけど実際は結構いると思うよ。
プライベートでも時々一緒に遊んだりしてるけど、屈託なく笑う、一緒にいて楽しい友達だよ。
なんか以前はフェミとかジェンダーとかにのめり込んでたらしいけど、今は全然そんな感じしない、一周廻って突き抜けちゃったのかもね」
<再び、祖母・Fさんの証言>
そういう店で働くって、あたしみたいに古い人間からするとなんだかなって思わないでもないけどさ、生き生きと働いてるみたいだから、まあ御の字だね。
行ったことあるのかって? さすがにあたしはないよ。
ダンナが職人を引き連れて行ったことあってね、『眼福ものだった』だってさ、まあ、あたしのしなびたおっぱいと美羽のじゃ月とスッポンだけどね、美羽のおっぱいはあたしからの隔世遺伝だよ、あたしの娘、美羽の母親のはぺったんこだもの。
さすがにダンナは一回行ったきりだけどさ、職人たちは時々通ってるみたいだね、またそれをネタに事務所でも笑いが絶えないんだから、それはとってもいいことなんだろうね、あたしはそう思ってるし、美羽もまんざらじゃないみたいだよ……」
作品名:7つの証言 ~掌編集・今月のイラスト~ 作家名:ST