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空墓所から

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23.こいつ



 小さい頃から、こいつが気に食わなかった。

 いつも人を下に見るような顔つきや言動。そんな風体で、「あの漫画で好きなキャラは誰だよ」なんてたわいもないことを聞いてくる。そこまではまあいい、ギリギリ許せる。しかし、少しでもそれらの質問の受け答えが予想を違えたもの、例えば、マイナーなキャラだったり、色っぽい女性キャラだったりする。すると、ニタニタとしたその気持ち悪い笑顔で、あっという間に、けんかの強いガキ大将格の男子どもに言いふらしてしまう。こいつはそんなやつなのだ。すなわち、こいつに何かちょっと多数の意見から外れたことを言うと、それが学年中にほぼ知れ渡ることになるというわけだ。そうなると、その腕っぷしの強いガキ大将どもが、わざわざ俺のところにそれを確認しに来る。でも、こっちはそんな簡単に自分の考えを変節できるわけがない。同じことを言う。案の定、笑われ、いじめられる。俺の義務教育時代は、おおむねこの繰り返しだったといっても過言ではない。

 こいつの面倒くさいところはそれにとどまらない。こいつは当時、何人かの女子ともコネクションを持っていた。あの頃の男子と女子なんて、恐らく互いに交流をしたいけどなかなかそれがかなわない、という年頃だったはず。せいぜい極一部の美男美女どもがともに登下校をしたり、それ以上のことをしていた程度だろう。みんながみんな、そんな関係性の中、こいつは数人の女子と気軽に話すことができる間柄だったのだ。

 俺ら、今でいうところの陰キャと呼ばれるであろう面々は、こいつとガキ大将との関係よりも、この女子との関係のほうを恐れていた。普段、日の当たらないところでうじうじしている俺たちの心の奥底にも、できることならお近づきになりたい女子の一人ぐらいいたものだ。そんな憧れのあの子に、いろいろなことを吹き込まれたらということを不安に思ってしまう。それに、こんな俺らでも女子の前ではいいカッコをしたい、いや、そこまで行かなくともせめて普通でいたい。そんなギリギリの願望があった。それ以下、すなわち、女子から嫌われる存在にまで落ちてしまうと、何をどうしようともうはい上がれなくなってしまうのだ。

 そういった女子方面へのコネクション能力の高さもあって、俺はガキ大将たちよりも、情報の収集と拡散が得意なこいつのほうが嫌いだった。ガキ大将たちはちゃんと強い。だから、多少いじめられるのは仕方がないと諦めも付く。女子だって別に罪はないだろう。彼女らは彼女らの論理で動いていたにすぎないのだから。だが、こいつはどうだ。実際に俺はこいつとけんかをしたことはないが、せいぜいやってみたらどっこいどっこいだったと思う。当時、弱虫で泣き虫の俺でも、こいつが相手なら案外やれたに違いない。そんな雑魚が、情報というものを駆使して立ち回り、対して力もないのにいきがっていたのだ。もしかすると、真に罰せられる悪というものは、こいつのことを指すんじゃないだろうか。

 俺はそう考え、37歳となった今現在、こいつの住まいを突き止め、寝込みを襲って拉致した。手足を縛られ、猿ぐつわをかまされて、すっかりおびえきったこいつは、疲れ切っているのか、俺の目の前でぐったり横たわっている。
 見下ろす形になった俺の視線と、哀願するこいつの視線が交差する。残念だが、おまえには力なぞないのさ。どちらかといえば、おまえは俺たち側なんだ。せいぜいその事実をかみ締めて死んでいけ。

 俺は、今まで見たことがないくらい無残に、あさましく、痛々しくて独創性あふれる殺し方をしようと思っていた。他人が言ったことの拡散しかできないこいつとは違い、オリジナリティあふれる人殺しができるってことを見せつけてやらねば。他人の模倣しかできなかった生き方を後悔させるくらいの殺し方じゃないと、来世以降、また同じことをやりかねないからな。

 俺は傍らから巨大なチェーンソーを取り出す。それを見て、ガタガタと暴れ出すこいつ。そいつの腹に刃を当てようとした。その瞬間、

「あれ、この殺し方、なんかで見たな」

と思った。今まで見たような方法じゃだめだ。そう考え、今度は手りゅう弾を取り出す。

「いや、これもありきたりすぎる」

アイスピック、拳銃、睡眠薬、水、硫酸、窒息、ガス、火、毒虫……。

 そばに陳列されているいずれもが、映画や実際の事件などで見たり聞いたりしたようなものばっかり。揚げ句の果てには金属製の雄牛の中に入れたり、ボート上ではちみつを塗り付けたりするような、前もって場所や道具を確保して準備を念入りにしておかなければならないような処刑方法が浮かんでくるが、それらすらもかつて世界のどこかで行われた処刑なのだ。

「人の殺し方も、なかなか斬新なものは見つからないもんだな」

俺は自分がこいつと同程度の凡庸さであることを目の当たりにする。まあ、この件については認めるとしよう。だが、それでも、だとしても、やはりこいつは地獄に落ちるべき人間だ。そうでなければならない。

 仕方なく俺は、こいつの首に細縄をかけて締め上げるという手垢の付きすぎた方法を用いて殺害し、数年後、裁判を経て自らも死刑台から落下してくびれ死ぬという、手垢の付きすぎたてん末をたどることとなった。


作品名:空墓所から 作家名:六色塔