通勤は戦いだ
この場面を見て、思い出した。
若いころ、脳卒中で意識のない患者さんの受け持ちだった。
ある夜、「急変です!」と呼ばれて、病室に行くと、呼吸が止まっていた。脈も弱くて触れない。
私は、付き添いの家族を集めて、
「ご臨終です。残念ですが、力及びませんでした。」と頭を下げた。
一同、深い悲しみに包まれた。
とまもなく、患者さんは、「フーッ」と息を吹き返した。
「チェーン・ストークス呼吸」という、無呼吸と正常呼吸を繰り返す症状だったらしい。
私は穴があったら入りたかった。
その後、患者さんは一週間後にお亡くなりになった。
あの時私は、恥ずかしさで一杯だったが、ほんとうは、息を吹き返したのだから、喜ばなければいけなかったのだろう。
今だったら、テレ隠しに、
「なーーんちゃって、ホラ、生き返ったでしょう。こういうことよくありますからね。気にしない、気にしない」なんて・・・・・。(やはり言えないだろう)
しかし、自分の体面ばかり気にしたことのほうが、医者としてよほど恥ずかしいことだと、今なら思う。
『ディア・ドクター』は、医療とは何か?を問いかける真面目な映画だった。医者が鹿狩りで行方不明になる映画ではなかった。
最後は、予想外のハッピーエンドである。
この場面に、医療の原点が象徴されているのだろう(未見の方のために、詳細は内緒)。
『ディア・ドクター』は心温まる映画だ。
まだご覧でない方にはお勧めです。
ちなみに平成二一年度、キネマ旬報邦画部門の第一位です。