「猫」
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「お父さん」
白銀(はくぎん)の電飾が降り積もる雪かのように
街中(まちじゅう)に煌(きらめ)く
人待ち顔の雑踏に偶然
見付けた父親の横顔を燥(はしゃ)ぎながら追い掛けた
膨(ふく)やかな手を引く
自分に笑い声を上げて付いて来る、母親
人波を掻き分け掻き分け、然(そ)うして気が付いた
父親の左腕に絡(から)み付く、見知らぬ女性
振り返る父親が滑稽(こっけい)な程、狼狽(うろた)える
振り返る女性が滑稽(こっけい)な程、若かった
言葉もない、妻を前に母親を前に和(にこ)やかに微笑む女性は綺麗だった
見事、他人の「モノ」を手に入れた者だけが浮かべる
愉悦の「笑み」なのだろうか
腕を組み、寄り添う二人を見詰めたまま
滑稽(こっけい)な程、青白い顔で立ち尽くす母親より断然、綺麗だった