ちょっと高すぎたのではないか
診察台に横になった。
女医が私の口に手を入れた。
いつかの若手の歯科医、「干物氏」(高校野球補欠クン)の指の記憶が脳裏をかすめたが、女医さんは違う。
ハンドクリームの微かな芳香が漂って、私は一瞬恍惚となった。
しかし、それも束の間、かわりに部長の大きな手が入ってきて、W先生が詰めてくれたセメントを剥がす作業にとりかかった。
力仕事なので、部長の得意分野だ。女医には任せられないらしい。
部長は力を込めて、電動ヤスリで削った。
「ゴリゴリガリガリ」から「ギリギリーーー。」となり、クライマックスへ向かった。
部長とクライマックスを迎えるのは、あまり嬉しくない。(女医のほうがうれしい)
いざという時に備えて、左手を上げる準備をしたが、まもなく治療は終わった。部長が疲れたせいだろう。
作品名:ちょっと高すぎたのではないか 作家名:ヤブ田玄白