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桐生甘太郎
桐生甘太郎
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八人の住人

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そんな訳で、僕達は違った嗜好や生活習慣を持っています。

話を桔梗に戻して、そこに時子も登場させてみましょうか。


時子は、一昨日と昨日、桔梗が現れた事を、自分のツイッターアカウントで知りました。

僕は普段から時子のアカウントを勝手に使っていて、初めは混乱されてばかりでしたが、この頃は、少し呆れるように読み流してもらえています。

でも、一昨日は僕ではなく、桔梗だった。時子は、僕と全く違う文体に戸惑っていました。それは、こんな文章です。

「この子達が忘れていた家事を片付けて、紅茶を入れた。音が気になるから暖房は消して。レモンスライスが欲しいかな。イヤホンから大きな音量で、音楽が流れていたから、すぐに止めて、イヤホンを外した。私は、自分の周りはいつも静かであって欲しいから、音楽があまり好きになれない。乾燥機の稼働音も、ちょっと好きになれないかも。」

その後、しらすご飯などの食事の写真がツイッターにアップロードされていて、更にツイートは続いていた。

もう一つ桔梗のツイートを引用しておきましょう。これが桔梗が時子に伝えたい事だったのだと思います。

「私達の事は無視して構わない。表に出ただけでもう用は済んでる。あなた自身とコミュニケーションする気は無いの。」

僕達別人格は、時子の過去の記憶です。だから、自分が表に出て、周囲の人に気持ちを伝える事が出来れば、即ち、「時子の感情表現」になる。

桔梗はそういう意味で、「あなた自身とコミュニケーションする気はない」と言ったんだと思います。でも、それは時子に更なる混乱を招いたようでした。

時子が目覚めた時に感じられたのは、暖房が消えていた寒さ、覚えのない満腹感、ツイッターに残された奇妙なツイートからの恐怖位だったでしょう。

混乱を収めたかったのか、時子はすぐに叔母に電話をして、色々と相談していました。その上で、叔母が抱いた桔梗の印象はこうです。

時子の叔母はこう言いました。

「そのツイートを聞かされてるとね、なんだか、「私は怖くないんだよ〜」って、暗に伝えよう伝えようとしているように思うんだけど…」

時子はすぐさまこう答えます。

「いや、怖いよ。“コミュニケーションする気がない”とか、なんか冷たい感じするし…それに、どうして直接的に言わないの?」

叔母は笑って答えました。

「そんな事、口で言っても何の証明にもならないでしょ、怖いか怖くないかは、時子ちゃんが判断するんだからさ」

「そっかあ…」

その叔母との電話で何かを思ったのか、時子は昨晩、こんな事を言い始めました。


「もしかしたら、私が別人格さん達を受け入れなかったら、私の中にしか居られない別人格さん達は、居場所がなくなっちゃうのかも」

彼女は夫に向かってそう話していました。

「私の周囲の人達が、私の別人格を受け入れていても、家主である私が受け入れなかったら、別人格さん達の居場所は永遠に得られないのかも…」

夫は、「カウンセラーさんに相談してみたら?」とだけ言っていました。でも僕には、自分達の道の出口が近付き、遠くにあった灯りがますます大きくなっていくのが見えたように思います。

もちろん、「彼らの居場所がなくなっちゃうんじゃないか」なんて、僕達に対する気遣いだけで「受け入れよう」と実行するのは、多分、不可能です。

時子自身が、僕達を必要と感じて、自分の動機として僕達を「受け入れたい」と思った時に、自然とそうなるんでしょう。僕はそう思います。

でも、僕達を気遣ってくれるというのは、警戒心を少し解いてくれたという事なんだと思っています。


今回も、お読み頂き有難うございました。更新の頻度はまちまちになりますが、また覗きに来て下さいますと有難いです。




作品名:八人の住人 作家名:桐生甘太郎