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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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八人の住人

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ある晩、僕は、忌まわしい夢を見ていました。

夢の中で、時子は逃げている。必死に逃げよう逃げようとして、風呂場、リビング、寝室と、駆け回っていました。そこには、あの女、時子の母親が居た。

ついに時子が追い詰められるとなった時。それまで、夢の中で客観的な視点としてしか働いていなかった僕の意識が、突然形を取ったのです。

僕は、自分が時子と同じ姿をしている事に気づき、目の前に現れた時子の母親に、怒りを燃やしました。

時子を虐待した母は、彼女が家出をしてからも、時子が逃れて行った父親の家に電話を掛けて、時子を叱り続けた。

それで時子は、“お母さんから逃げる事は出来ないんだ”と、自殺を選んだのです。あと一時間遅かったら死んでいたと、医者が言っていた。あの日、偶然に父親が早く帰ってこなかったら。

そこまで追い詰めたのに、それだけでなく、今でも夢の中で追いかけて来る。憎くて憎くて堪りませんでした。

だから、何かを盛んに言い立ててこちらに襲いかかってくる母親を、僕は近くにあった何かで、殴り飛ばしました。

「お前のせいで!お前のせいで!死んじまえ!てめえがこの子をこんなにしたんだ!俺は絶対に許さねえ!クソ野郎!死んじまえ!」

僕は、鬱積していた怒りを爆発させ、ずっと母親を殴り続けました。

僕が手に掴んだ物がなんだったのかなんて、僕は考えもしませんでした。でも、後から時子が夢を振り返り、こう言っていた。

“急に夢の中にもう一人私が現れたと思ったら、大きな辞書みたいな物で、お母さんを殴り続けて、男言葉で罵倒してた。なんだったのか分からなくて、私、怖くて堪らなかった”

時子はそんな風に怖がっていましたが、彼女がどんなに怖くたって、もし母親が目の前に現れたら、現実でも僕は同じ事をするでしょう。

時子は復讐なんか選ばない。時子は、親戚からこっそりと「あなたのお母さんは、あれから色々な病気を抱え込む事になってね」と伝えられてから、ずっと母親の心配をしています。

人に害を与えてばかりだから、誰にも構われなくなった母親の事を、時子は、“お母さんは孤独に死ななくちゃいけないのかしら”と、悲しむのです。

この文章を書いていて、僕はなんだか、訳が分からなくなってきました。虐待は悪のはずです。子供に罪などないはずです。それなのに、時子ばかりが辛い思いを自ら背負い込もうとする。これは一体なんでしょう。

彼女が夢から醒める日は、来るのでしょうか。


今日は少し重くなってしまいましたね。でも、ここまでお読み頂き、有難うございました。また読みに来て下さると有難いです。それでは。




作品名:八人の住人 作家名:桐生甘太郎