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桐生甘太郎
桐生甘太郎
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八人の住人

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最後に、四度目に失敗した統合の話をします。


その日時子は、家の近所にある病院へ、付き添ってくれた夫と出かけました。

何事もなく診察待ちをしているはずだったのに、ある瞬間から、僕と時子の間で奇妙な事が起き始めました。

これを文字に書くのはとても難しいのですが、とにかくやってみます。

その時、僕と時子の意識はどちらも目覚めていて、意識の最前に、「時子」と「五樹」が交互に現れ始めました。

時子が病院の受付から離れて、自動販売機で飲み物を買い、それを取り出そうとした時、時子の心に急に僕の意識が上り、“早く帰りてえな”と呟いた。

その後、“え、今の、何?”と時子が困惑し始める。

それから僕が、“意識が混じり始めた”と認識をした。

“私は今、誰なの?”

“俺は本当に五樹なのか?”

“交互に出てきてる”

“このまま統合に向かうのか?”

そんな風に、僕と時子の意識が、自然と混じり始めました。それは何の前触れもなかったけど、何か理由を探そうと思えば出来たのでしょう。

僕達に余裕はなく、「急に体調が悪くなって」と受付の事務員の方に告げ、その日はすぐに帰宅しました。

帰宅してしばらくしてから、まるで振り子の揺れがだんだんと収まるように、意識の交代が終わった時、四度目の統合がされました。

時子は「五樹」が持っていた記憶を捉える事が出来ましたし、気持ちはずいぶん落ち着いていました。

でも、それもまた駄目になってしまった。その時も、原因は疲労とプレッシャーだったように思います。

実は、四度目の統合が解けてしまった時の状況は、僕はもう覚えていません。

何回も繰り返していて、傾向がいつも同じ出来事は、細かい所は忘れてしまうのでしょう。


時子はいつも、疲労や緊張に追い詰められると、人格を分裂させてしまう。でもそれは当たり前の事なんです。彼女が大きな危機を、その方法で乗り越えてきたから。

僕達は、彼女が苦難の中でも生きていけるように、危機に当たった時には、彼女自身が大きなショックを抱えないように、感情的記憶を分け与えられて生まれた者達です。

だから、統合をしても、大きなショックの前触れを感じたら戻ってしまう。

いつか時子が、僕達を受け入れられるように、「今は幸福だから、もう大丈夫」と思ってくれるといいと、僕は思います。




作品名:八人の住人 作家名:桐生甘太郎