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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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八人の住人

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悠はしばらくお菓子にはしゃいでいましたが、時子の夫がテーブルに就くと、やっぱりこう言いました。

「ねえおじさん。僕、やっぱりママには会えないの…?」

時子が7歳の時、時子の両親は離婚し、母親の方が家を出ました。「悠」は、そのショックを保存した存在です。

ここから少し長い説明をします。

悠は、時子の母親そのものを記憶して、欲している訳ではありません。

自分が母親の顔を知らない事に気づきもせずに、悠はただただ、「ママに会いたい」とだけ周囲に伝えます。

時子の母親像は、幼い頃から「お母さんがちょっと怖い」と思い続け、その後、時子が社会に踏み出してから、「うちのお母さんは私を虐待しているんだ」と知って逃げ出すまでの、大きな流れです。

その流れと、7歳の頃に母親が恋しかった気持ちは、矛盾してしまう。だから、母親の記憶は切り離された。僕はそう見ています。

「ママはここには居ないし、来ないからねえ。会えないねえ…」

残念がるように目を伏せ、時子の夫は悠にそう言います。

「そっかあ…悠君、もう眠いから、寝るね」

悠は自由奔放に寝室に寝転びに行き、この間時子が買ったばかりの、メンダコのぬいぐるみを見つけました。

「あ!これ!これかわいい!なに!?」

「それはね、「メンダコ」。タコだよ」

「へえ〜!タコさんかあ!」

近くにあったネコのぬいぐるみ、それからメンダコのぬいぐるみを一緒くたに抱き締めて、頭から布団をかぶって安心してしまうと、悠はそのままゆっくりと眠ってしまいました。


僕が目覚めた時には、まだ溶けかかって甘ったるいミルクキャンディーが口の中で存在を主張していて、僕の両手は用もないのにぬいぐるみにしがみついていました。


今回悠が出てきて怖かったのは、スマホは小さな子供でも感覚的にいじれてしまう、という所でしたね。

さて、ここまで読んだ皆さんは、これをどう感じたでしょうか。もう一度、時子が34歳の女性で、いつも怯えて遠慮がちな人物だと思ってみて下さい。

僕達は、時子の部分でありながら、時子とは様々に、極端に違うのです。でも、それは、時子が発揮出来なかった感情的傾向が、僕達だから。悠のような寂しさ、奔放な素直さも、時子は持っていた。そういう事です。

お読み頂き有難うございます。また来てくれると、嬉しいです。それでは。




作品名:八人の住人 作家名:桐生甘太郎