帰りの電車で人身事故だった
「奥さん元気?」
「ウン、マア」
「息子さんたちは?」
「特にかわりないよ」
「そう。ところで最近は、何に凝ってるの?」(J君は昔から凝り性である)
「いやあ、それがネエ。朝の通勤が混んでて大変なんだ」(話がかみあわない)
「ホー、それで?」
「仕事場に着くと、仕事する前から疲れてるんだ」(彼は、家とクリニックが離れている)
「忙しいんだろ? 患者さん多いんだろ?」
「いや、それが、あまり忙しくないんだ」
「じゃ、楽でいいじゃないか」
「それが違うんだ。収入がね、上がらなくて」
「そうか。でも自由時間があれば、本読んだり勉強できていいじゃないか」
「そうでもないんだ。去年の地震で瓦が壊れたのを修理したりしてね」
「でも、君がやるわけじゃないだろう?」
「ウン。でもね、落ち着かないんだ」
「そうか、それもそうだなあ」
作品名:帰りの電車で人身事故だった 作家名:ヤブ田玄白