カンチューハイを車内で飲む男
私の診察室には時々赤ちゃんや幼児がついてくるが、犬のほうが行儀がいいようだ。見習ってほしい。
診察が終わって、「お大事に」というと、犬は頭を下げて感謝する様子だった。私の考えすぎだったかも知れない。
しかし、医者の中にも、私のように人間より動物が好きな医者ばかりとは限らない。
中には犬が大嫌いな医者もいる。
そういう医者の場合は、落ち着いて診療が出来ないだろう。
いつ噛み付かれるか、逃げ腰で診察するだろう。
以前私の家でも犬を飼っていた。
シェルティで性格は良かったが、盲導犬ほど人類に貢献できなかった。
しかし、家族全員に愛されて、家庭を和ませてくれた功績は高く評価できる。
年老いて、しだいに目が見えなくなり耳も遠くなった。
犬のための盲導犬を飼おうかと思ったが、二匹一緒に散歩させるのは大変なので断念した。
最後は、好物のサバ缶を食べた後、息を引き取った。嬉しさのあまり心臓が止まったのだろう。
その後は、元野良猫を飼っている。
猫は自分本位で、人類のために役立とうという意識はない。
カツオブシが欲しい時に、主人の肩まで手を伸ばして、「ネー、ネー」と甘える程度だ。
それに比べると、先日の盲導犬の気高さ、落ち着いた立ち居振る舞いは偉大である。
人間だってあそこまではできないだろう。
給料も貰っていないはずだから、ますます敬意は深まる。
しかし、一つだけ知りたいことがある。
それは、自分のご主人様は目が不自由だということを理解して、先導役を務めているのか、それとも、単にトレーニングの結果なのか、ということだ。
この次来たときに聞いてみたいが、犬に聞いたらよいのだろうか、それともご主人様に尋ねたらよいのだろうか。
作品名:カンチューハイを車内で飲む男 作家名:ヤブ田玄白