カンチューハイを車内で飲む男
車内は中学生や高校生が多かった。
彼らも遅刻するのは困るようだ。
早く行って先生の授業を聞きたい学生はいないだろうが、遅刻で点数が下がるのは迷惑なのだ。車内にイライラが充満した。
最初に皆が始めたのは、ケータイで会社や学校に連絡することだった。
声の調子から判断すると、皆、落ち着いている。
自分の責任でなく、思わぬ事故に巻き込まれた被害者という意識があるせいだろう。
言葉がよどみない。
最後にちょっと「迷惑掛けてすみません」と相手を思いやる言葉を巧みに挿入している。
メールを打つ人も慣れているようだった。
私の隣の男はじっと腕組みしたままだったが、ケータイを持っていなかったためだ。
作品名:カンチューハイを車内で飲む男 作家名:ヤブ田玄白